この本、発刊された時に一度読んでいるのだけれど、この前行った中古本屋の棚に刺さっていたのを見つけて、思わず買ってしまった。
ショウサンことオウショウサンデーは、当時はその姿形からクロフネのイメージで読んでいたが、天衣無縫の逃げっぷりはサイレンススズカをも思わせる。
今読むと、ショウサンの新馬戦に八弥のような騎手が乗る筋書きは、騎手にエージェントがついたり外国人や地方出身の騎手がいる現在では成り立たない、古き良き時代の話となってしまったな。
とは言え、ショウサンの競走成績と八弥の騎手生活をひとつの軸に、馬主と調教師の関係(今はこんな個性的な個人馬主はいなくなったけどな)、若い調教師と古株厩務員の軋轢(パドックでのスーツ姿と言えば、先日辞められた角居師のことを思い出す)、騎手の減量、トレセンの騎手だまりや馬の診療の様子などまで余さず描かれた話は、今でも十分に楽しめる。
ショウサンのレース振りはそこまで細かく記されないながらも、八弥が騎乗した新馬、500万下のレースを知れば、クラシックロードの不振と生駒によって覚醒した中山記念以降の強さが短い描写の中でも十分に目に浮かぶ仕掛け。
切羽詰まりながらも腕を頼りに騎手を続ける八弥の日常も幅広く描かれ、売れなくても総じてポジティブな中、自分が背負った情念をリエラブリーに押し付け走らせる新潟記念にはアイロニカルなところもあったり、一筋縄でないところが良い。
自分の描くストーリー通りにショウサンを走らそうとするオーナーの姿はいかがなものかと思わせるが、良い意味での馬主のロマンが少なくなった今日では、こうしたガツガツした姿も微笑ましく映る。
「いつか王子駅で」の感想にも似たようなことを書いたが、馬が強くなった割に肝腎の競馬が昔と比べてあまり面白くないのは、どうしてなんだろうな。
GⅠが多くなってGⅠ馬が何頭も出ている割にはワクワク感に乏しく、調教技術が上がった一方トライアルの意義は薄れ、ビジネスライクな大馬主の思惑からはGⅠすら使い分けの対象となって強豪が勢揃いしてのガチンコ勝負が見られないのが何とも味気ない。
常にTTGのような強豪が揃い個性ある脇役も周りを固めた時代が懐かしい!
- 感想投稿日 : 2021年3月27日
- 読了日 : 2021年3月26日
- 本棚登録日 : 2021年3月27日
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