幻想小説に近い?展開が面白くて、文章が魅力的でどんどん読めた。
自分の解釈をつらつら書いてみたりする。
タイトルの通り、とにかく光の描写が多い。光のあるところには当然陰が落ちる。光の描写よりは少ないが、陰の描写も多い。陰翳礼讃の引用までされているから、もうこれは明らかに「光と陰(影)」のお話なのだ。
そして「夏」という季節の設定。夏は一年のうちで最も日差しが強く、影がくっきりと出る。
また、肝試しをしたり、怪談話をしたり、なんとなく異界と近くなる季節のような気がする。猛烈に暑く、ぼんやりとして、物事を深く考えるのも億劫な季節でもある。
光の当たっている部分、つまり見えている部分は一側面でしかなく、影になっている見えない部分が、物事、特に人にはたくさんある。
人を知る、という行為は、特に自分にとって近くて、大切な人ほど複雑なように思う。ある程度もう自分のなかでこの人はこういう人、 という人間像があるので、そこを越える(変える)のは、難しいし、少し怖さもある。
そんな、大切な人(「私」にとっては最愛の兄)の真実を知っていく過程は、一種の異界に迷いこむようなものなんだろう。
幻想的な描きかたになるのも不思議ではないなと思った。
あと、物語の進行役のようなヤドカリについて。なんでヤドカリなのかなと読んでいる時は思ったのだが、兄妹は家出をしながら、宿を借りているし、めぐは勝手に上がり込んで宿を借りている状態だし、遥も異界?のフランス人の家で宿を借りている。途中で洋一という青年がくっついてきて帰らなかったり、家出をしてきた子がずらずら出てきたり、とにかくみんな家があるにも関わらず、帰らない。
このヤドカリそのものも同じだ。家があるのに、帰らずにその辺をずっとほっつき歩いている。
そして、最終的には皆、なんでもなかったかのように自分の家に帰る。つまり、収まるところに収まるという感じ。
ちゃんと要素一つ一つに何かしら理由やつながりがあるようで、ただ不条理な世界観のように見えて、実はすごくよく考えられているし、丁寧に描かれている小説だなあと思う。
結局真相のわからないままで終わる要素もあるのだが、それはむしろそういうものだ、という気がする。所詮自分ではない他人を完璧に知り、理解することなどできないから、"あえて"書かなかったのではないかと思った。
- 感想投稿日 : 2022年5月1日
- 読了日 : 2022年5月1日
- 本棚登録日 : 2022年5月1日
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