主人公は幼い頃、自分の中に時々現れ話しかけてくる実体のない(R)という存在がいた。
幼い彼に、白衣を着た男は言う。
「君は好き勝手生きるわけにはいかない。
自分だけの内面に生きているわけにもいかない。
いつか世界は君を攻撃する。
そして攻撃を受けた君はその世界に復讐しようとする。
そうなる前に君は変わらなければいけない・・・」
バーで出会った中学の同級生紗奈江は、猟奇的殺人で家族を殺され唯一生き残った少女だった。
彼女の混沌に入り込んでいく中で、
主人公もまた自分の泥沼に入り込む。
中村文則の小説を読むたびに、
この小説家はいつも町の片隅に生きる「たった一人」のために書いていると感じていた。
読む者全てにではなく、
読んでいる者、そのたった一人のために。
この小説は特に、その「たった一人のため」を強く感じさせる一冊であったと思う。
私はいつもその「たった一人」の読者である。
たった一人に、確実に届くと言うことが、
どれほどの希望をこの世界にもたらすことができるのだろうか。逆もまた然り。
「たった一人」を甘く見てはいけない。
中村文則は、小説の登場人物の光と闇を通して、
いつもいつも「一人の人間」に手を差し伸べている。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
本
- 感想投稿日 : 2014年8月19日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2014年8月17日
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