スターリンは、黒海とカスピ海に挟まれたカフカース(コーカサス)地方のグルジア出身。本名はヨシフ・ヴィッサリノヴィッチ・シュガシヴィリ。流刑・脱走を繰り返すなかで捜査当局の追及をかわすために変名を使いだし、そのうちの一つ「スターリン」が呼び名として広まり、定着したのだという。
「スターリン」で思い浮かぶキーワードは、猜疑心の塊、残酷で無慈悲な政策、大量の餓死者、政敵の大量処刑、といったところだろうか。
ヒトラーと並ぶ最悪の指導者・独裁者として憎しみを込めて語られることが多いスターリンだが、本書は、できるだけバイアスを排除し、ニュートラルに真のスターリンの姿を描こうとしている。
スターリンがやろうとしたことは、後進国のロシア・ソ連を「農業国から工業国へ、電化と金属の国へ、機械とトラクターの国へ転化させること」。その為に農民を農業集団化(コルホーズ、ソホーズ)し、その収穫をただ同然で搾取して外貨を獲得し、工業とりわけ軍事産業を強化した。不作の年にも穀物を大量に供出させ、農民の逃散を許さなかったため、ウクライナなどの穀倉地帯で大量の餓死者を生んだ。1933年の餓死者数は、一説には第一次大戦で死亡したロシア国民よりも多い500万に上るともいう。農民の犠牲の上に無理に工業化を進めたための悲劇だった。
この事件、同じく大量の犠牲者を出した毛沢東の大躍進政策と類似していて怖い。どちらも、理念先行の共産主義・全体主義と、その指導者の失政が生んだ悲劇、と言えるのかも知れない。
権力を完全に掌握した後も、失政を糾弾される事を恐れるあまり猜疑心に駆られ、潜在的な政敵を次々逮捕して処刑していった(例えば、1936年~38年の大粛清では、68万人あまりが処刑された)という。誰も止められなかった事がホントに恐ろしい。
ロシア国内でのスターリンの歴史的評価は、未だに割れているとのこと。因みに、スターリン擁護派は、「スターリンの犯した政治的誤りや違法行為は、彼が歴史的偉業を成し遂げる過程で生じた付随的現象として」過小評価する傾向にあるという。「スターリン主義とは、「犯罪と失敗、それに歴史的勝利の不可分の一体」だと」。
本書を読んで、スターリンの人物像や事績を何となく掴むことができた。スターリン、冷酷非道な面はあるにしても、案外普通の人とそう変わらない人物だったのかも知れない。
バランスの取れた良書と思う。
- 感想投稿日 : 2019年5月30日
- 読了日 : 2019年5月30日
- 本棚登録日 : 2019年5月29日
みんなの感想をみる