上級国民/下級国民(小学館新書)

著者 :
  • 小学館 (2019年8月6日発売)
3.81
  • (23)
  • (51)
  • (31)
  • (2)
  • (3)
本棚登録 : 377
感想 : 51
5

本書は、゛社会の分断゛をテーマに取り上げ、この現象が歴史の必然であることを解説した書。

産業革命が生んだ高度なテクノロジーは、人類にゆたかさをもたらし、そのゆたかさが「私の人生は私が自由に選択する」自己実現/自己責任社会(リベラルな社会、能力主義(メリトクラシー))を実現させた。テクノロジーが牽引するこのリベラルな社会は、「高い知能を持つ者が大きな優位性を持つ」知識社会なのであり、「論理・数学的能力と言語運用能力を持つ者が富と名声を独占する人類史上極めて異常な社会」と言える。知識やスキルを得られず、職を失い「知能社会」から脱落し、切り捨てられる下級国民が出てしまうのは、やむを得ないことなのであり、「知識社会」が続く限り彼らを救う処方箋はない。そして、1970年以降の「右傾化」=「反知性主義、保守化、排外主義」は、行き過ぎた「知識社会化、リベラル化、グローバル化」へのバックラッシュ(反動)なのだという。

一言でまとめると、「世界が総体としてはゆたかになり、ひとびとが全体としては幸福になるのとひきかえに、先進国のマジョリティが「上級国民/下級国民」へと分断されていきます。これは産業革命(知識革命)によって成立した「近代」が完成へと向かう〝進化〟の不可逆的な過程なので」す、となる。

この流れ、とても分かりやすくてすっと頭に入った。

この他、本書で面白かったのは、
「平成の日本の労働市場では、若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで中高年(団塊の世代)の雇用が守られた」のであり、「平成が「団塊の世代の雇用(正社員の既得権)を守る」ための30年だったとするならば、令和の前半は「団塊の世代の年金を守る」ための20年になる以外に」ないという見解。戦後社会はこれまでずっと団塊の世代(の男性)が支配してきたから、これまで彼らの労働者としての既得権を侵すような改革はできなかったし、これからも高齢者となった彼らの年金を侵すことが難しいのだとすれば、日本にとって団塊の世代の存在意義って一体何なんだろう。

また、「モテ」=持てる者(上級)と「非モテ」=持たざる者(下級)が分裂をもたらしているという話も、性の性(さが)という新しい視点から社会の分断を論じており、斬新で面白かった。「男女の性戦略の非対称性によって、恋愛の自由市場のなかで男はきわめて強い競争圧力にさらされ」ており、「その結果、「非モテ」の男は性愛から排除されることで人生をまるごと否定されてしまう」というのはあまりに悲しい。知識社会から経済的にはみ出し、女性から見向きもされないなんて、ダブルパンチではないか。ある意味マイノリティーよりも悲惨なこの層にこそ(社会福祉としての女性陣からの温かい?)救済が必要なのかも知れない。世界各地で非モテ(インセル(Involuntary celibate、非自発的禁欲))によるテロが起きているのもやむを得ないことなのだろうか。

本書、深い内容を分かりやすく解説していて、得られるものが多かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教養
感想投稿日 : 2020年12月3日
読了日 : 2020年12月1日
本棚登録日 : 2020年12月1日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする