天地明察(下) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2012年5月18日発売)
4.13
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本棚登録 : 8849
感想 : 941
5

本をそこそこ読んでいると、年に数冊ほど、ただ単に面白い、興奮した、感動した、という言葉だけでは書き表せない読後感になる物語に、出会うことがあります。

便宜上、他の作品と同じように☆5をつけているけど、その中でも年に数冊出会うことができるかどうかの、☆5の中でも特に別格の作品。今年の二作品目はこの『天地明察』でした。

上巻で日本各地で北極星の位置を観測する“北極出地”の旅を終え頭脳も、そして精神的にも大きな成長を遂げた春海に託された命。それはこれまで国の天理を司った暦を作り替える「改暦事業」だった。

下巻の序盤で、改暦事業の責任者に春海を推挙してくれた人たちの名前を、江戸時代の土台を作るほどの実力者で、今回改暦の命を下した保科正之が、挙げていく場面があるのだけど、そこでもう涙腺にきそうになる。
上巻での素晴らしい人たちとの出会いがあり、春海がここにたどり着いた。そう考えるだけで、感極まるものがありました。

そして信頼できる仲間達と共に、新たな暦を創ることに邁進していく春海。これまでの暦を重んじる朝廷からの反対で、事業が凍結されてもその熱意は衰えません。

そして碁打ちのライバルである道策のさらなる成長と、春海に対して燃やす対抗意識。改暦の命を下した保科政之が、改暦に込めた意味。北極出地の恩人、伊藤への贈り物。妻との死別。そしてえんとの再会。

様々な出来事が春海の周りで起こり語られます。そうした場面の一つ一つが、春海の人生に意味を持たせ、物語を彩り、テーマを際立たせ、物語を盛り上げて行きます。

そして遂に高まった改暦への機運。春海たちは万全の準備をし、朝廷と幕府に改暦の請願を出しますが……

最終章の第六章で遂にここまで名前しかでていなかったものの、春海に最も大きな影響を与えたと言っても過言ではない算術家の関孝和が登場。

春海と関の初対面の場面はいきなり荒れに荒れて、どうなることかと思いながら読み進めたのですが、ここでまた涙腺にくる場面がやってくる。そして改めて、春海が挑むものの大きさと、春海に夢を託した人たちの想いが思い返されます。

挫折を乗り越え、歩み始めた春海の元に再び訪れた改暦のチャンス。春海はこの機会をものにすべく、これまでの調査や研究結果をまとめ、そしてさらに万全の策を練ります。
しかし改暦をもくろむ勢力は春海たち以外にも存在し、そして遂に朝廷が新しい暦を選ぶ瞬間がやって来て、春海の生涯を賭けた「天」との勝負に遂に決着の瞬間が訪れる。

歴史小説は史実に基づいたものなので、どうしても展開に制約があると思うのだけど、それを最後の最後まで気の抜けない展開に持って行った、冲方丁さんの構成力にただただ脱帽。

そして春海の人物描写と内面の変化の描き方も、素晴らしいの一言に尽きます。

上巻で自らの境遇や碁打ちという役目に辟易し、本当の勝負がしたいと、表面的な穏やかさや物腰、言動からはうかがい知れない乾きを抱えていた春海。
そんな彼が算術、北極出地、そして改暦と自分の生きがいと託されたものを見出し、人生を賭けた勝負に一心不乱に向き合う様。

瑞々しく爽やかな描写に加え、春海自身の熱意とワクワク感が読んでいるこちらにも伝わってくるようで、ページをめくる手が途中から止まらなくなる。

そして、春海の脇を支える登場人物たちの存在も大きかった。作中で描かれる全ての出会いに意味があるのは、小説だから当然といえば当然なのだけど、その出会いの意味がどれもこれも、大きくて。

だからこそ物語がより生き生きしてくるし、脇役達にも魅力を感じる。そしてそんな魅力的な登場人物達が春海に夢と想いを託すからこそ、春海をさらに応援したくなるのです。

ただただ本当に素晴らしい小説でした! 

第31回吉川英治文学新人賞
第7回本屋大賞1位

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説・歴史小説
感想投稿日 : 2020年8月25日
読了日 : 2020年8月24日
本棚登録日 : 2020年8月24日

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