怪談物のおもしろいところは怖さというよりも、綺麗に解決されないモヤモヤ感や、釈然としないところだと個人的に思っています。
ミステリーなら怪談の現象にも何らかの説明をつけるでしょうし、ホラーに振り切ったなら、派手な流血や命の危険を強調すると思うのですが、
怪談物は特にオチや伏線があるわけでもなく、命の危険までいくこともあまりない印象があります。(そもそも語り手が死んでいたら、怪談として伝わることもないですし)
特に説明やオチもないけど、なんだか不気味で尾を引く。それが怪談の面白さだと自分は思うのです。
この短編集の著者はフィッツ=ジェイムズ=オブライエンはアメリカの作家だそう。でも、収録されてる作品の雰囲気の多くは、怪談物の雰囲気があるように思います。特に「あれは何だったのか? ―一つの謎」なんて、本当にタイトルのまんま(笑)
不気味だけど、誰かが死んだり呪われたりするわけでもなく、読んでるといつの間にか話が終わっていた印象です。カテゴリはちょっと違うかもしれないけど、この釈然としなささと、ちょっと呆気ない感じが本当の怪談っぽさがあります。
幽霊がでてくるものも奇妙な味わいがあって良い。「チューリップの鉢」「なくした部屋」どちらも幽霊がでてくる建物での奇怪な体験を描いたゴーストハウスもの。読み終えた後に抱く感情はそれぞれ違いますが、言葉にしがたい奇妙な感覚が残ります。
そして、自分だけかもしれませんが、短編の中にはおかしな連想を働かせてしまうものもあります。「墓を愛した少年」を読み終えたときに最初に浮かんできたのは、シューベルトの魔王でした。奇怪で不気味な感じと、子どもを襲う理不尽で理由のない悲劇が、そう感じた理由かなあ。
表題作の一編「不思議屋」から連想したのは『トイ・ストーリー』。最も内容は、似て非なるものなのですが……(そもそも似てるかどうかも怪しいけど)
動き始める人形たちの描写と行動の不気味さもさることながら、それを操る「不思議屋」のいかにも邪悪な魔法使いですよ、感がなかなか乙です。
表題作のもう一編「ダイヤモンドのレンズ」は怪談・怪奇ものというよりかは幻想小説の方が近そう。レンズをのぞき込むとそこには妖精のような美しい女性がいた、というメルヘンな話なのですが、そうは問屋が下ろしません。
主人公の視点から語られる女性の描写がものすごく修飾・美化されているんですよね。最初はこうした表現が美しくも感じられたのですが、徐々にその賛美が読んでいるこっちとしては、気持ち悪く感じてくるというか……。
元々話がメルヘンなだけに、余計に主人公が常軌を逸してる感じがしてくるのです。話の結末も含めて、メルヘンで妖美でありながらも奇妙な読後感の残る、なんとも言えない作品でした。
そして最終話に収録されている「ハンフリー公の晩餐」。散々ここまで変化球を見せられてきたので、最後はどんな球が来るんだ、とバッターボックスで見極めようと思ったら、ど真ん中にストレートを投げられたような、そんな感覚(笑)
ヘンな話ばっかり読んできたので、最後に上手い具合にまとめられた感があって良かったと思う反面、そうやってまとめられてしまったことが悔しくもある……。
たぶん、ここで出来の良くない短編だったら「最後だけ行儀よくまとめてくれやがって」なんてことも思うのかもしれませんが、なにぶんストレートな話でも上手く描かれてるから、そんな牙も抜かれてしまいます(苦笑)
振り返ってみると一筋縄でいかない短編集だったなあ、という印象です。クセはありますが、ちょっと変わった小説も読んでみたい、という方ははまるかもしれません。
- 感想投稿日 : 2020年3月2日
- 読了日 : 2020年2月29日
- 本棚登録日 : 2020年2月29日
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