風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社 (2017年7月20日発売)
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感想 : 72
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裏染天馬シリーズ第三弾は日常の謎系の短編集。長編二作からの短編集なので、ちょっと箸休めかな、と思ったらこちらもかなり面白かった!

「もう一色選べる丼」は学食の食堂に返却されず、外に置きっぱなしにされ、なおかつ半分しか食べられていない丼の謎をめぐる短編。

シャーロック・ホームズはワトソンと初めて出会ったとき、握手をするなりワトソンが海外に行っていたことを言い当て、その理由を述べました。

裏染の推理もそれを彷彿とさせます。わずかな痕跡から食器を残していった生徒の特徴を絞り込んでいき、それに加えてのロジックで、遂に一人の生徒にまでたどり着く構成はお見事の一言!

『体育館の殺人』『水族館の殺人』と、ロジックに相当なこだわりを見せてきたこのシリーズですが、短編集の『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』でも、そのこだわりは健在です。

表題作「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」は、祭りの屋台のお釣りがなぜか50円玉ばかり。さらに調べていくと、少年が屋台の店主にお釣りを50円玉にしてほしい、と頼み回った、という謎をめぐる話。

不可解な謎と、ある意味納得のいく意外な動機がこれもまた上手い。シリーズのキャラもわちゃわちゃと登場して、その賑やかさも良かったです。

「針宮理恵子のサードインパクト」は、作中随一の甘酸っぱさ。
不良ぽく、口調も乱暴な理恵子とその後輩の華奢な吹奏楽部部員の早乙女。一応付き合っている二人ですが、早乙女が部活内でいじめられている、と思われる状況に理恵子は遭遇してしまい……

理恵子の一人称の語りと思考のもどかしさや、照れくささであったり、その青臭さが「いいなあ」と思ってしまう短編でした。

不良少女のギャップというか、女の子らしさというか、好きな人にはたまらないこと請け合いじゃないかなあ。そしてこの短編での裏染が、ある意味これまでで一番主人公らしかったかも(笑)

「天使たちの残暑見舞い」は教室から忽然と消えた二人の女子生徒の謎。
耽美な雰囲気もあり、そして大仕掛けもありの短編。この耽美な雰囲気も好きな人にはたまらないはず。

「その花瓶にご注意を」は裏染の妹の鏡華が主人公。
花瓶を割った犯人との推理対決。天馬は名探偵らしいというか、解決シーンになると淀みなく一気に推理披露し、事件を解決するイメージなのですが、鏡華は犯人の反論や矛盾を指摘されつつも、粘り強くその穴を埋めて、犯人を仕留める推理という感じ。

各短編と比較しての、天馬と鏡華の推理の過程の違いも面白かったし、もちろんロジックもしっかりしている。普段は猫を被ってる鏡華の暴走と、ワトソン役である同級生の姫鞠のやり取りも、他のキャラたちに負けず劣らず面白かった。

そして、最後に収録されているおまけの「世界一の居心地の悪いサウナ」
この短さでもロジックを放り込んでくるあたりは流石だな、と思ったのですが、登場する二人の関係性や、セリフからのも今後気になるところでした。
でもまあ、この二人「同じ穴のムジナなんだな」と思ったりもしたのだけれど(笑)

青崎さんの長編のがっつり推理にページを使う本格ミステリも好きですが、この短編集のような気軽に読めるロジックのミステリも、キャラの魅力も相まってとても良かったと思います。
長編だけでなく、この路線でもどんどん作品を発表してほしいなあ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー・サスペンス
感想投稿日 : 2020年6月28日
読了日 : 2020年6月20日
本棚登録日 : 2020年6月20日

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