駆け出しの弁護士ランディはある日、母親からマリアという女性の相談を受けるよう頼まれる。ユダヤ系の女性であるマリアは若いころにオーストリアを脱出。そのときにナチスに奪われ現在、オーストリアの美術館に所蔵されている絵画「アデーレ」を取り返す裁判の弁護をしてほしいというのだ。そして二人は、裁判のためオーストリアへ向かうのだが…
自分がこの作品に☆を5つつけたのは、裁判の様子だけでなく、マリアの回想を効果的に挿入することで、より感動的な映画になっているためです。
アデーレはマリアの叔母を描いた作品であり、そのため大切な思い出の象徴であることは、間違いありません。しかし、回想のシーンは、それだけでは終わりません。叔母が亡くなった後も、家族と一緒に幸せに暮らしていたマリア。しかし、突然ナチスによって資産を差し押さえられ、マリアは老いた父母を残し、夫とともにアメリカへ脱出することになります。
幸せな記憶と、ナチスの管理下に置かれすべてを奪われていく日々。そのどちらも描かれるからこそ、マリアがアデーレを取り返そうとする真意が直接的でなくても、見てる側の心に届くのです。それは、もちろんお金のためではないし、単に思い出という単純なものでもないと思います。奪われた日々の象徴、戻らない過去への郷愁、自身の家系への誇り、そうした諸々を感じさせるのです。
はじめは裁判の注目度の高さからメリットを計算し、弁護を引き受けたランディですが、オーストリアでホロコースト記念館を目の当たりにしてから、心情に変化が現れます。自身が所属する法律事務所から、弁護から手を引くように言われても、また、マリアが弱気になり、裁判をやめようとするときも、自分の心と正義を信じ、時にマリアを引っ張り裁判に臨みます。その成長の姿も見ていて清々しい!
成長はマリアにもあります。辛い記憶から避けるため、初めはオーストリアに行くことを拒否していたマリアですが、徐々にそれを乗り越えていき、そしてランディとの関係性も徐々に深くなっていきます。この姿もまたいい!
オーストリアの裁判所でのランディのスピーチ、映画のラスト近くで明かされる、出国間際のマリアと両親の最後の会話はいずれも感動的!
wowowのW座で紹介されるまで、まったく知らなかった映画なのですが、ここまでいい話だとは思いませんでした。こういう知らない掘り出し物に出会えるからこそ、こういう映画専門チャンネルの特集は、見るのをやめられません。
- 感想投稿日 : 2017年2月5日
- 読了日 : 2017年2月5日
- 本棚登録日 : 2017年2月5日
みんなの感想をみる