初出は1927(昭和2)年から1954(昭和29)年。
数冊出ていたらしい河出文庫の久生十蘭短編集シリーズ、明示されていないが、一応各巻に編集テーマがあったのかもしれない。本書は事実に基づいて書かれた小説か、あるいは事実っぽく書かれた小説が中心ということなのだろうか。
後者の「事実っぽい」作品、事実と見分けがつかないほど巧みに書かれているし、相変わらず隙の無い文体・構成で、迫真の重さがある。語彙の豊富さは言うまでもなく、実に多様な領域に渡る博識も相当なもの。1編の短い小説を書くに当たってもすこぶる周到な資料収集を心がけた作家であったのかもしれない。
がっちりと堅牢で意味内容が濃密な十蘭の短編小説は、一つ一つに重みがあって、短編集を読み通すとおなかいっぱいになる。凄く高カロリーなこてこてで多様な料理が次々と出されてくる感じだ。だから正直言うと、短編集を読み通すと少々疲れる。
本書中では「公用方秘録二件」(1943《昭和18》年)が特に面白く、気に入った。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
文学
- 感想投稿日 : 2022年1月3日
- 読了日 : 2022年1月2日
- 本棚登録日 : 2022年1月2日
みんなの感想をみる