シェイクスピア全集24 ヘンリー四世 全二部

  • 筑摩書房 (2013年4月10日発売)
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感想 : 13
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フォルスタッフが有名な『ヘンリー四世』だが、なんとなく読まずに来てしまった。
福田恒存からシェイクスピアを読み始めた自分は、一番好きなのは小田島雄志さんの軽快な笑いに満ちた訳業である。このちくま文庫の松岡和子さんの訳は、もちろん福田より読みやすく今風だが、特にずば抜けた特徴はないような気がする。特にシェイクスピアの史劇はあまりストーリーが面白くないので、凡庸な印象を受けてしまう。
『ヘンリー四世』第1部・第2部は、老いた友人フォルスタッフらと放蕩三昧に暮れていたハル王子が、突然改心し、勇ましく武勲をあげ、さらに王位につくという筋。このハル王子の心理はどうもあまり魅力的でなく、やはり本書が人気だったのはフォルスタッフのおかげである。
全般にシェイクスピア劇の人物はみんな凄まじく饒舌で、当時はアクション映画のような演劇はなく台詞の豊穣さで観客を楽しませるのが王道だったのだろう。
それにしてもフォルスタッフの、まるでラブレーの小説のような、ナンセンスなユーモアの噴出は素晴らしい。結局はヘンリー五世となったハル王子に見捨てられ、フォルスタッフは追放されるに至るのだが、「王の道」はかくも冷酷に余計なモノを排除していくのか、と淋しい感じがする。フォルスタッフが王子の青春時代の放蕩の象徴で、どうしてもそれを切り捨てなければならないとしても、王にはやはり道化が必要だ。シェイクスピアは、まだ王の分身、「道化」を発明していない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学
感想投稿日 : 2013年7月8日
読了日 : 2013年7月7日
本棚登録日 : 2013年7月7日

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