何と言ってもショックだったのは、このハードカバーを買って読み始め、一休みしていたら同作が筑摩書房で文庫化されて出たことである。貧乏な上に本の置き場にも困る身としては、これほど悲しいことはない。先日は桐野夏生さんの『路上のX』でも同じことが起きたばかりではないか。いや、読書人は誰でも、「ハードカバーをようやく入手したら間もなく文庫版が出てしまった」という悲劇的経験を数多く積んでいるのではないだろうか? それとも自分に運がないだけか?
2008年刊行のこの「詩集」は川上未映子さんの超初期に属するものだ。小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』が2007年で、本書に含まれている表題作は2005年。まだ彼女がビクターからシンガーソングライターとしてCDを出し、ブログで破天荒な言語爆発を繰り出していた頃である。
本作、詩集とは言っても散文詩で、改行は少ない。この時期の彼女の卓越した感覚に支えられた言語遊戯がストレートに炸裂しているのは期待通りだった。
もっとも、表題作はちょっと支離滅裂すぎるのだが、2006年、2007年に書かれた散文詩になると物語要素が支配的になってくるため明解である。彼女の言語感覚の卓越はこの次元でも十分に味わえる。
最近の川上未映子さんは倫理的思考が強くなってきていて、あまりにも平面的な、明解なロゴスに滞在してしまうと文学作品としてはむしろそれは私には弱点に見える。倫理よりも言語なるものは「上」なのだ、と彼女には頑張ってほしいと勝手に期待している。本作はそういった彼女の潜在的な力を約束しているはずなのだが・・・。
ちなみに、彼女にはもう1冊同様の「詩集」である『水瓶』を、私は本書と同様にやっとハードカバーで購入したのだが、何とこれも、文庫化されるらしい。
- 感想投稿日 : 2021年4月25日
- 読了日 : 2021年4月25日
- 本棚登録日 : 2021年4月25日
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