2016年から2017年にかけて『サイゾー』に連載された記事「川崎」に加筆修正して出版されたルポタージュ。川崎市の中でも特に沿岸の川崎区を中心に取材を重ね、そこに生きる人々の姿を伝えている。
川崎区は労働者と外国人の街とも言われ、飲む・打つ・買うの場所が集まる「ガラの悪い土地」である。周辺地域の子供が「あそこには行くな」と言われて育ったという話はよく聞く。2015年には、中学生の少年が河川敷で殺されるという痛ましい事件が起きた。犯人も少年たちであり、改めてこの街の「闇」が耳目を集めた。
連載「川崎」はその殺人事件をきっかけに始められたものだが、事件の顛末を追うことがメインではない。朝鮮系やフィリピン系など外国にルーツを持つ子供や、不良からラップやダンスで身を立てた若者たち、そして彼らをサポートする大人たちの話が中心だ。歓楽街やドヤ街で生きる人々にも触れている。取材された人々は犯罪に手を染めた過去があったりして必ずしも善良な市民ばかりではないが、それでも懸命に生きている姿が眩しく感じる。
ラゾーナ川崎の建設などで駅の周りはきれいになった。それでもまだ、きれいではない街は残っている。全部きれいにしたらみんな幸せになれるだろうか? ここで生まれて抜け出そうとする者もいるけれど、流れ着いて住む者もいる。こういう場所もどこかには必要ではないだろうか?
私は過去3回川崎区に住んだことがあるが、さほど危なくない場所だった。本書で紹介されたエリアに対しては、他人事だと思って怖いもの見たさで覗いているに過ぎない。けれど、街のどこかに「きれいではない場所」が残されていることに、何か魅力を感じてしまうのは確かだ。
- 感想投稿日 : 2021年3月23日
- 読了日 : 2021年3月22日
- 本棚登録日 : 2021年3月23日
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