20世紀が終わる頃、冷戦が終結して専制国家は激減し、差別は悪いことだという価値観が定着し、マイノリティの権利も尊重されるようになりつつあった。それはリベラルの勝利のように見えた。しかし21世紀はテロで始まり、東西対立とは別の対立が始まった。近年ではリベラルに対する反動が強まっている。どうしてこうなったのか。世界は平和で幸福になるはずではなかったのか。
本書はそんな疑問を解消してくれた気がする。もちろん本書に書かれていることはひとつの見方であって、他の解釈もあるだろうが、現時点では非常に説得力がある。
個人の行動の自由を際限なく認めれば弱肉強食の世界になり、平等や公正は失われる。そのため本質的にはリベラリズムと民主主義は相性が悪いはずだったが、全体主義(ファシズムや共産主義)への対抗として両者が結びついたリベラル・デモクラシーが生まれた。この頃の国家のあり方を著者は「共同体・権力・争点」の三位一体と呼んでいる。
しかしリベラル・デモクラシーが勝利すると、存在意義を失って三位一体は崩壊する。経済的にある程度豊かになって飢えることがなくなると、階級や組織に基づいた政治活動が個人を基礎とする運動に変わった。68年革命と呼ばれる転換が訪れ、個人の承認欲求やアイデンティティを重視した政治が求められ、自由が称揚された。
リベラリズムは直訳すれば自由主義だ。政治的自由や経済的自由など様々な自由があり、著者は5つに分類している。しかし問題は、自由な社会は自己責任の社会でもあるという点だった。自分で選んだ結果は自分で負わなくてはならない。それは、能力や財産をたくさん持っている強者にとっては望ましい社会だが、弱者にとっては辛いのだ。それが宗教の復権や権威主義の台頭を招いたのだという。
なるほどと思うと共に、じゃあどうしたらいいのかという諦観が湧く。おそらく当分は今のような世界が続くだろう。誰もが幸せになれる社会を作ろうとしても、そもそも幸せの条件がバラバラなのではどうしようもないだろう。納得と同時に残念さに襲われた。
- 感想投稿日 : 2022年8月3日
- 読了日 : 2022年7月29日
- 本棚登録日 : 2022年8月3日
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