令和元年のテロリズム

著者 :
  • 新潮社 (2021年3月26日発売)
3.85
  • (2)
  • (7)
  • (4)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 49
感想 : 8

 令和元年に発生した凄惨な3つの事件を取り上げ、社会が抱える問題を考察する。5月28日、スクールバスを待つ小学生と保護者が岩崎隆一に殺傷された事件。6月1日、元農林水産省事務次官の熊澤英昭が自宅で次男の英一郎を殺害した事件。7月18日、京都アニメーションが青葉真司に放火され69名が死傷した事件。どれも暗澹たる気分になる。

 小学生を殺害した岩崎隆一は51歳。直後に自殺してしまったので動機は不明のままだが、20年以上引きこもり生活をしていたという。父親に殺害された熊澤英一郎は44歳。引きこもりではないが若い頃から定職に就けず、アスペルガー症候群との診断を受けていた。京都アニメーションに放火した青葉真司は41歳。過去に下着泥棒とコンビニ強盗の前科があるらしいが、この人物の家族の歴史はもはやホラー小説かと思うほど悲惨だ。

 当時の私は46歳。上記の犯人たち(熊澤英一郎は被害者だが原因は彼だろう)は概ね同世代で、氷河期世代とかロスジェネと言われる。なにかと自己責任が要求されるようになった時代に、やりなおせるほど若くもなく、介護されるほど年寄りでもない。本人の責任はもちろんあるが、場所と時代が違えば、ちょっと変な人で済んでいたかもしれない。そして置き去りにされた人々は、まだ他にもたくさんいる。

 これらの事件の前、4月19日には87歳で元官僚の飯塚幸三が池袋で11人を死傷させる重大事故を起こしている。また、この年の終わりには新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、今も終息していない。元号が変わったことで突然社会が変わったわけではないだろうが、何か象徴的な印象を受けるのは確かだ。令和があと何年続くか分からないが、あまり良い時代になる希望が感じられないのは何故だろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年5月30日
読了日 : 2021年5月29日
本棚登録日 : 2021年5月30日

みんなの感想をみる

ツイートする