三作目。上流階級の顧客のため走り回っている姿はあいかわらずだけど、いろいろとスケールアップ。巻頭で主人公・静緒が自分の仕事を語る言葉も、ずいぶん変わってきました。最初の頃、どこかで会ったことのありそうな人だった静緒は、彼女の顧客たちと同じように、広い世の中にはこんな人もいるかも、になっていき、今や、私から見れば上流階級の一員かも。ただし、久々に会った母親の変化に老いの兆しを感じあわてるのは、身の回りによくある話かな。
静緒の新たな顧客として、SNS等で好きなイラストを挙げているうち大ブレークしたフリーのイラストレーターさんが登場します。徐々に、彼女は、彼女の作品を使ってイベント等を展開している会社からロィアリティの点で不当な扱いを受けてると感じるようになっていきます。そして、静緒の助けも借りて、超一流の弁護士に依頼して戦う覚悟を固めていきます。
作中で、桝家の言葉として、ちゃんと怒らないと、いつまでもこれでいいんだってなる、ある程度経済力のある人がぶん殴った方がいい、そういう会社ってたいてい他の下請けフリーランスを搾取している、ショーや撮影の現場はパワハラでなりたっている、って書かれています。
この作品の陰のテーマの一つは、搾取なのかも。各人の能力や労力や成果物に見合う対価が、払われているのか。そう考えると、今の世の中も、そこらじゅうに搾取が転がっていますね。百貨店のような大会社に雇用されている人も、例外ではなく・・・。
かのイラストレーターさんは、しんどいと言いながら、堂々と戦いに挑みますが、その戦いは、結局のところ、札束での殴り合いに挑むってことでもあるから、彼女の清々しさをよしとし、応援したいと思う一方、先立つもののない身としてわずかな苦みを感じました。
少し変わった味わいだけど、なかなかによいお仕事小説です。
- 感想投稿日 : 2024年2月4日
- 読了日 : 2024年2月4日
- 本棚登録日 : 2024年1月11日
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