トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉

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  • 東洋経済新報社 (2019年9月20日発売)
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★第2弾だからこその厚み★前作「マングローブ」を読んでいないので重複する部分がどの程度あるのかは知らない。JR東労組から3万人超が脱退した異常事態の裏側を描き、同じ総連系ながら、触れられることの少なかったJR北海道労組の今も残るいびつさを描く。あとがきの最後にあったように、北海道の話をメインに書きたかったが、読者が限られるので東の現在進行形のトピックを先に持ってきたのだろう。東の話を書いた本は多いが北海道は少ないだけに貴重だ。取材の蓄積と歴史観に強みがある。

東については、経営側が労政転換をして組合をつぶしにかかったといっても、そんなに組合員が一致団結して脱退するわけではない。法令違反かもしれないが、経営側が現場の管理職などを動かしたのだろう。これまでの組合の歪さはおそらく前著でも触れており、逆に経営側から見たこの段階での具体的な戦術が見えるとさらに興味深い。また、現状ではほとんどの社員が組合未加入という事態になった。日本の大手企業としては異例のこの状況がどうなるのかは、労使関係の壮大な実験にもなる。

北海道の組合の歴史はきちんとたどった書物がないだけに読みごたえがある。ハシにいるからこそ、革マルがより先鋭になるのだろう。内部資料の積み重ねもあり取材は手厚い。社長経験者2人が自死したのは本当に異例の事態だ。中島氏については組合問題とささやかれてはいた。36協定違反を契機に組合が経営側ののませようとした、国鉄時代に逆戻りする「現場協議の復活」の意味の大きさが、詳細な資料と歴史的な経緯をきちんとひも解いてくれたことで理解できた。
ところで、西側をおさえる連合系の組合なら問題は生じていないのだろうか。

いずれにも共通するが、(ほぼ)会ったことがない人を糾弾している例も多い。もちろん努力をしても会えなかったのだろう。対立する側の取材が中心となるなかで、まだ生きている人について書ききるのは、取材の厚みへの自信なのか割り切りなのか。胆力がいる。

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カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2020年1月26日
本棚登録日 : 2020年1月26日

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