「弱くても勝てます」が大ヒットしドラマ化されたのだが作者の名前をちゃんと言える人はどれくらいいるのだろうか?高橋秀美と書いてヒデミネと呼ぶ。本書の方が古いのだが弱くても勝てますと雰囲気がすごくかぶる。とにかくゆるゆるなのだ。
野球がへたな開成高校の野球部員がよくわからない理屈をこね回していたように、泳げないヒデミネさんも水中で色々考える。最初の頃はこうだ、壁を蹴ってすすむ次は腕を回す「どっちの腕から回そうか?しまった、こういうことは事前に決めとけばよかった、と後悔して立ち上がった。」もう一回、今度は左からと決めているのだが「次は右」と考える。「いつから右?」
スイミング教室の桂コーチはゆるくない。「泳げない人はいません」「おぼれたら、私が助けます」その信念でとにかく泳がせる。(高橋桂コーチによると、最初に泳げるかと聞いた時にヒデミネさんは「泳げる、かなあ」と何ともはっきりしない返事をしている)平日の昼間で他の生徒も女性ばかりだが一番弱々しいのがヒデミネさんだ。
ヒデミネさんはとにかくすぐに立つ。息継ぎができないで風呂場で練習し顔を真横に上げてみる。しかし鼻と口はお湯の中のままだった。「もしかしてこれは横ではないのではないか?」さらに「上」に「上げる」もわからない。水の中で上とはどっちで、頭をどっちに上げればいいのか。そして悟る。泳ぐということは頭の方へすすむこと、つまり陸上なら空に向かってすすむことだ。「水泳とは『昇天』なのである。『呼吸しよう』などと考えず、やはり死んだつもりにならないといけないのである。」
水中でどこを見れば良いのかでまた悩む。「見ないでください!」と桂コーチ。そしてまた悟る。「この『私』は水中で悩み迷う私なので、苦しくなるのは道理だ。」「陸上と違い、水中では滅私の目線でいなくてはならないのである。」仏像だ!「泳げる人たちは、きっとこういう目で泳いでいるに違いない。だから迷うことなく、いつまでも泳いでいられるのである。すなわち禅だな、と私は直感した。」
うーん、しかしこの人が元ボクサーでジムでトレーナーもやっていたらしい。このゆるさで大丈夫だったんだろうか。開成高校野球部との親和性の高さがよくわかる、あれは奇跡の出会いだったんだ。
- 感想投稿日 : 2014年5月22日
- 読了日 : 2014年5月20日
- 本棚登録日 : 2014年5月20日
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