自分のなかに歴史をよむ (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房 (2007年9月10日発売)
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本棚登録 : 983
感想 : 93
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阿部謹也先生の書を読んだ。
あとがきを読んで驚いたが、本書は中学生向けに書かれたものだという。阿部先生の半生の紹介から始まり、ヨーロッパと日本の違いというところまで話が展開されていくのだが、平易な文章をにしていることは読みながら感じていた。
しかし、扱っている内容と阿部先生の言わんとしていることは、高度で深い。
学問をするとは、主体的に、自覚的に生きることである。
そのためには、自分の内奥を掘り、それを歴史の中に位置付ける必要がある。過去の学者の積み重ねの上に、先端を切り拓く使命があるからだ。
しかし、それは学者でなくても同様だ。過去を学び、歴史を学び、今を規定していく。それは同時にどこを目指すのかという未来にも規定されている。
そして、阿部先生の内奥の格闘は、歴史家として一つの読み解きを可能にした。それは、大宇宙と小宇宙という二つの宇宙観の着想である。
古代中世のヨーロッパではこの二つは別物であり、小宇宙たる人間は、大宇宙を畏怖しながら対峙してきた。そこでは、人間同士の関係性が最重要であった。
しかし、キリスト教は人間同士の関係に割り込み、神との契約が大事であるという。すなわち、人間と教会の関係が重んじられるようになった。契約社会への移行である。
それは、人間関係の変化であり、その変化は様々な歪みをもたらした。賎民がそれであり、ポリフォニーもその中で生み出された。
阿部先生の着想は、ヨーロッパに対して感じた違和感が種となっている。その種を元に、自分の人生を歴史の中に刻みつけようとする戦いであった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2018年6月6日
読了日 : 2018年6月6日
本棚登録日 : 2018年6月6日

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