アフターダーク (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2006年9月16日発売)
3.17
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本棚登録 : 16192
感想 : 1285
4

ブンガク
かかった時間110分

夜の街。女の子と青年。暴力を受けた中国人。元女子プロレスラーのホテル支配人。逃げ回るコオロギ。目覚めないエリ。暴力を振るい、何事もなかったかのように日常に戻る男。テレビの向こうの四角い部屋。顔のない男。それらを見ることができる「わたしたち」。

なんとなく眠れない夜にぴったりの、詩的な小説だ。ここしばらく、謎が巡らされ、冒険とともに謎解きがあるタイプの村上春樹をよく読んでいるけど、この作品はどちらかというと「風の歌を聴け」に近い、いくつかの断片から為る、美しいモザイクのような雰囲気がある。物語は淡々と進み、そこには何かしらの希望があり、さわやかで優しい読後感がある。以前に「多崎つくる」を読んだ時、村上春樹はなんてくだらない話を書くようになってしまったんだ、と思ったが、あの作品も、もしかしたら、こういう風に、イメージで読むべき作品だったのかもしれない。また、今回「星4つ」としたが、深夜のしっとりした気分じゃなかったら、もう少し評価は低かったかもしれない。

位置づけ的には、「村上春樹の新境地!」という感じらしいが、それでも、夜の(闇の)深さや、そこでは全てが起こりうるのだということ、そして昼の光の、ほとんど祝福のような明るさとあたたかさは、他作品と共通するものだし、女の子と青年の出会い方が、「100%」の雰囲気と似ている。

作品の初めと終わりで示されているように、わたしたちは個であり世界のたんなる断片だ。断片の美しさ、というか、ちいさなきらめきのようなものが、この作品からは感じられると思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ブンガク
感想投稿日 : 2018年8月26日
読了日 : 2018年8月26日
本棚登録日 : 2018年8月26日

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