屋上物語 (ノン・ノベル 653)

著者 :
  • 祥伝社 (1999年4月1日発売)
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本棚登録 : 71
感想 : 19

他シリーズなど、料理の描写が美味しそうなことには(私個人で)定評のある北森作品ですが。今回の巻末著者略歴で「調理師免許を持っている」と判明し、ひどく納得しました。どーりで!
今回出てくるうどん屋スタンドのモデル店はそんな先生のお墨付き…東京池袋の某百貨店屋上にあったそうですが、どこですか先生!教えていただければ百円玉数個握り締めて、絶対に行きます!  

デパートの屋上…そこは空中の楽園。あるのは少し古く小さい遊具たち、ベンチなどの憩いの場、稲荷狐や地蔵。人に伝えることの出来ない器物たちは、そこに集う人々をただ見ていた。彼らがしていく行動を、そして自殺や殺人や…たくさんの事件を。
見ているだけで歯がゆく思う器物らの前で、しかし屋上の女傑・うどんスタンドの主のさくらさん(人は彼女をさくら婆と呼ぶ)がエコーの煙をくゆらせながら、思考に沈み事件を解決していく。
前・店長が自殺した場所から飛ばされた紙飛行機。『気をつけろ9・26』。震える指でタバコを吸う学生服の少年。―――「はじまりの物語」
ひとりの警備員の死体。死亡時間に撮られたUFOの写真。突然に動かなくなってしまった古びた年代物の観覧車。―――「波紋のあとさき」
電話の3つのボタンを何度も押す女子高生。ベンチに置き去られたPHS。ほぼ同時刻に鳴り出し流される奇妙な音。―――「SOS・SOS・PHS」
子供が突然苦しみだした事件。各地を転々としてきた古びたピンボールマシン。最高記録に夢中で挑戦する高校生。―――「挑戦者の憂鬱」
時々やってくるようになったバグパイプ奏者。病院から逃げ出した日雇い労働者。夕方の病室から見えた風景。―――「帰れない場所」
隠すように置かれていたバグパイプのケース。消えたバグパイプ男。さくら婆から祈りを、願いをかけられた小さなお地蔵様。―――「その一日」
閉店の決まったスタンドに家出娘を探して声をかけた中年男。変身ヒーローの興行ショー。怪獣の着ぐるみの中の死体。―――「楽園の終わり」
事件と事件が絡んで繋がっていく連鎖ミステリー。

”連鎖”と書いて「チェーン」と裏表紙にはルビが振られていましたが、私は著者のことばにある”数珠つなぎミステリー”の方がいいなぁと思います。チェーンはなんとなく悪意の繋がりのようで…。さくら婆が事件を解決しながらも願っていただろう「祈り」が数珠となってくれれば、救われるかなぁ…などと感じます。
そう感じるほどに、空中の楽園にしては話が重くやりきれない話が多いのです。そりゃぁさくらさんだって弱気にもなるよ!いくら濁声でドンブリを戻さない客を一喝(ぎろりと睨むのも付属)したり、いわゆるヤクザ者に対して劣らない威圧感(&うどんの熱闘攻撃)を与えられるような女傑でもさ!
いや…でもスゴイ女性です。きっと面と向かったら怖いだろうけど、でも尊敬に値します。でもそんな彼女にも、過去には悲しい思い出が…。
話は重いながらも、ヤクザ者で結局さくらさんに使われまくってる杜田、ちょっとケンカっぱやいけど気のいい高校生・タク、そしてさくらさんの3人はなんだかんだでいいトリオですよねv 気が合うというか、バランスが取れていた感じ。おバカさんで子供なタクを「やれやれ」と見てるさくらさんと、一緒になって笑い合いつつも危なくなれば引き戻す杜田、子供扱いして仲間はずれにするなヨとぶーたれるタク…みたいな。
いつかどこかで、また会える日を迎えられた…そう思いたいものです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 北森 鴻
感想投稿日 : 2012年6月13日
読了日 : 2009年2月7日
本棚登録日 : 2012年6月13日

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