女性同士の愛を描いた短編集。とは言っても、表題になっている「返らぬ日」が全体の半分の文量を占めていたり、読者から書いてほしいと言われた話が載っていたり、当時の女性の境遇や愛についての作者の考えを述べた評論が入っていたりと、内容はバラエティに富んでいた。
解説にも書いてあったが、「愛情賛歌」が一貫したテーマとなっていた。戦前に書かれたという時代背景もあり恋愛自体が成就することはないものの、それぞれの恋愛の終わり方が愛に満ちたものになっていて心が動かされた。「返らぬ日」と「裏切り者」が特にそうだったと思っているが、最後に示される愛がそれぞれ異なっているところが面白かった。
「返らぬ日」では、主人公のかつみは母に託された夢を選ぶか恋人を選ぶかの選択をしなければならないという状況に陥る。そのためにかつみは悩むための時間をもらうが、その間悩んでいたのはかつみだけではなく恋人もそうだった。最後にお互いを思いあった選択をした結果、離れ離れになるという恋愛や自分の気持ちを超えて思い合う愛が描かれていた。「裏切り者」では、高圧的でクラスで浮いていた人に気に入られた主人公が、ある事件においてその人を選ぶか主人公の家族を選ぶかを迫られ、結果これまでのこともあり家族を選ぶという決断をする。その後、主人公は相手に怯え相手のことを避けて過ごすようになるが、ある時ふとすれ違って言われた言葉から、相手が自分の選択でどれだけ傷ついたかを知る。自分も相手も思っていた以上にお互いを必要としていたことを知るという無くなって分かる愛を描いていた。
このように様々な種類の愛が瑞々しい表現で描かれており、楽しめた。短編ごとに地の文や会話の雰囲気が変わるのも今まで読んでことがなく目新しく感じた。特に、「返らぬ日」では地の文に感嘆文が出てきて、興が乗った人の朗読を文に落とし込んだようだった。
- 感想投稿日 : 2023年10月2日
- 読了日 : 2023年10月2日
- 本棚登録日 : 2023年10月2日
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