こちら『ランドリー新聞』編集部 (世界の子どもライブラリー)

  • 講談社 (2002年2月20日発売)
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本棚登録 : 182
感想 : 17
5

読みごたえがあった。
たしかに主軸となる内容は、アメリカの平均的な小学校で起こった、小学5年生の女の子カーラが手製の新聞を唐突に教室に貼ったことから生じた、新聞にまつわる一連の物語。つまり表紙のイメージどおり。
だが実際読んでみると意外と中身は濃い。私がそう感じたのは、この本では、カーラとラーソン先生、そしてクラスメイトの日常の姿を借りる形で、まるでアメリカの歴史がぎゅっと凝縮されているかのように物語が進んでいくから。つまりこの本には、次にあげた複数のテーマが重層的に折り込まれているから読みごたえがあるのだ。

① カーラが発行する新聞を起点にした、ジャーナリスムのあり方について(真実の追求と取材相手の人権尊重とのバランスのとり方)
② 植民地として自由を奪われていたアメリカが、独立して築き上げてきた自由と権利の根幹をなす、出版と言論の自由について
③ 小学校では、管理教育と、児童の自主性に任せる教育とのどちらが優れているのかについて
そして、強いてあげれば、もう1つ。
④ 両親の離婚が現実になったときの、小学生にとって受け入れられる現実とそうでない現実について

こうやって①②③④を書き並べたら、とても子ども向けの本には見えない。でもこれがこの本の真の姿であり、子どもの読者を子ども扱いしない、アメリカの児童書の奥深さだ。
①と③なんか現時点でも正しく答えられる大人がいるのかどうか、心もとない限り。だが本来ならば、私たちが社会生活を送るうえで、歴々の諸先輩方が数々議論してきた論点をきちんと現代の視点で整理して、自分なりの答えを頭の中に用意しておくべき大事なテーマだ。

えっ、「今まで生きてきて、そんなことちゃんと考えたことなかった」って?まあ(私も含めて)誰でもそうだと思う。
だけどこの本では過去から現代までのアメリカでの議論のポイントを、まるで早回しの映像のように小気味よく見せてくれるから、読者は各テーマについてのヒントにその都度気づくことになる。(でも、正解が何かを考えるのはあくまで読者自身だよ。)

それと、この本の表紙を見ればわかってもらえると思うけど、イラストもナイス(絵を描いたのは日本人の伊東美貴さん)。
楕円形の独特なフォルムで描かれた女の子の顔はチャーミングで目を引くし、ラーソン先生の授業の雰囲気が一目でわかる13ページのイラストは、小物などの細部が画面一杯に描きこまれた力作。

そのように、翻訳やイラストなどの日本の出版社でなされた仕事が、アメリカ生まれの原作とハーモニーを織りなし、ともすれば固くなるテーマを適度にほぐしてくれている。だからアメリカの固有名詞がいくら出てこようとも、日本の少年少女にとっても読みやすく、感情移入しやすいはず。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月22日
読了日 : 2021年9月22日
本棚登録日 : 2021年9月22日

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