美味しんぼ: 豆腐と水 (1) (ビッグコミックス)

著者 :
  • 小学館 (1984年11月30日発売)
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本棚登録 : 587
感想 : 79
5

雁屋哲という名前は「男大空」(おとこおおぞら)で知っていた。
少年サンデーの、なぜか巻末によく載ってたけど、いつの間にか真っ先に読む作品になってた。破天荒なストーリーなんだけど、それをある程度飲み込めば、脇キャラの個性豊かさや、独特の理論で畳みかけるストーリー構成は癖になる。

私が大学生当時、スピリッツではじめは月イチくらいでの美味しんぼが掲載されているのを見て、最初は雁屋さんと食とが結び付かなかった。雁屋さんといえば正義と悪とのバトルじゃなかったの?でもよく読むと、その片鱗は美味しんぼでも見つけられるものだというのがわかってきた。
例えば第1話の「ワインと豆腐に旅させちゃいけない、そこに書いたとおりですよ」。例えば第3話の「ネタは最高、シャリも最高、だがオヤジ、肝心のおまえの腕が最低だ」etc.誰がなんと言おうと、私はこの初期の山岡のギラついた正義感にはまってしまった。

また、はじめは主人公に敵対するキャラが事件をきっかけに主人公の魅力に気付き、主人公と行動をともにするようになるというのも同じ。(京極さんなんか、いきなり「ケツの穴の小さいじいさんだ」とまで言われたのに。)
普通という視点から見れば大きくはみ出しているように見える主人公が、ある一線は決して譲らず、それに気付いた周りの人間が仲間となって集まって大きな力になるというのは、まさに男大空の祭俵太の場合と同じだ。
だから雁屋作品を読んだことがない人は“食コミック”などと捉えるんだろうけど、私はやっぱり男大空と同系統の括りに入れたい(笑)

それと、雁屋さん自身が美味しんぼをはじめた時にすでにベテランの域にいて、物語の起承転結の付け方とか、登場人物の性格付けとかがやっぱり抜きん出てる。
いわば正統派作品と言ってもいいと思うけど、男大空で「本物の学校」を求め主人公が仲間といっしょに大型船を購入して世界へ向かって航海をはじめる(笑)という展開を見てるから、美味しんぼを読んでも額面どおり「本当の食とはこれか!」とか解釈してしまうつもりはない。
あくまでエンターテインメント。だから細かい描写をあげつらって「ここはオカシイ」とか「こっちが本当」とかはツマラン読み方であって、そんな野暮はしたくない。

作品自体が細かい講釈だらけなので突っ込みを入れたくなる気持ちは判らなくもないが、軽く受け流してとにかく雁屋節にどっぷりつかるというのが正しい読み方だと思うんだけど。
でも初期と比べて作品の内容が次第に理屈が勝ってきて、一定の理屈の受容に落ち着かせるような“窮屈な”読ませ方に変化してしまったと感じる。
そうでなくて、男大空のように風呂敷をババーンと広げるような展開が占める初期の方が私は好きだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年11月7日
読了日 : 2015年11月3日
本棚登録日 : 2015年11月3日

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