息吹 (ハヤカワ文庫SF SFチ 4-2)

  • 早川書房 (2023年8月2日発売)
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感想 : 26
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『あなたの人生の物語』のテッド・チャンによる 17年ぶりの短編集。映画化もされた世界的な有名作家なのに専業ではなくものすごい寡作ぶりで、そのぶん一編一編が奥深く、消化するのに時間もエネルギーもかかる。
収録は全 9本、ネビュラ賞やヒューゴー賞など名だたる賞を獲得した珠玉の作品ぞろい。

この人の頭の中はどうなってるんだと思うようなぶっ飛んだ設定の上で、さらに話が想像もつかない方向に発展していくので、一度読んだだけではなかなか理解が難しい。
毛色の違う作品ばかりだが、「避けられない運命、受け入れ難い真実を知ったとき人はどうするか」というテーマは一貫している。

「息吹」
舞台が地球でもなく主人公が人間でもない幻想的な世界の中で、自己の存在と世界の真実について、文字通り身を切りながら考察する彼。「息吹」というタイトルからは息こそが生命そのものというギリシア哲学のプシュケーを連想させる。

「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
技術書かと思わせるようなタイトルで、本書中もっとも長い150ページ超の中篇。求職中の元飼育係に持ちかけられた仕事は、仮想ペットの訓練。ゲームは一時ブームになるもあえなくサービス終了、だが彼女はその後も私的に自分のペットの育成を続ける。

「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
網膜プロジェクターを埋め込んでライフログを録ることが一般的になった世界。曖昧で主観的だった人の記憶が、デジタルデータで厳密に検証されるようになると何が起こるか。口伝社会だったアフリカの部族にヨーロッパ人が紙と文字を持ち込んだ逸話が交錯して語られる。

「オムファロス」
約8千年前にこの世が創造されたという証拠が存在する世界で、それでもこの宇宙は人間のために作られたものではないという天文学における発見が人々の信仰を揺さぶる。

「不安は自由のめまい」
分岐した並行世界と限定的に交信することができる装置「プリズム」が発明された。死んだ子の歳を数えるがごとくのめり込む人々と、それにつけ込んで金儲けをする人々が織りなす人間模様。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説・文学
感想投稿日 : 2023年10月14日
読了日 : 2023年10月14日
本棚登録日 : 2023年9月27日

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