シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと

著者 :
  • 河出書房新社 (2020年3月18日発売)
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感想 : 57
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著者の前作(出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと)があまりにも面白くて人生の指南書としても素晴らしい内容だったので最近新しく出版された本書を読んでみました。しんどいけど真面目にレビューを書きます(頑張って書いたら3時間くらいかかりました。読んだらいいねとかください)。

概要としてはタイトルにある通り、シングルファーザーの男性と付き合うことになった筆者がその子どもたちとどのように関わっていくかを考える話なのですが、そのことを通して 結婚とはなにか、教育とはなにか、家族とはなにかについて、いわゆる「一般的な常識」をできるだけ排除しながら筆者が徹底的に向き合っていくという内容です。
本書で印象的だった箇所の一部を以下に抜粋+自分の思ったことを書きます。

・結婚について
"ひとりの人と特殊な関係性を築くことの面白さはわかるんだけど、それが性欲や独占欲や嫉妬とか、あと一生の約束をする、みたいな事象と当たり前に結びついてないといけないっていう話になると、ちょっとわからなくなる"
→多くの人が抱えているであろう結婚に対する違和感をよくぞ言語化してくれた、という感じがしました。もちろん生涯を通して一人の人と添い遂げることの尊さや素敵さみたいなものはすごくわかるし、その生き方を実践している人のことを否定するつもりは全くありません。というか、むしろ自分もできればそうありたいと思います。が、実際問題人の感情は移ろいゆくものだし、人生のある時期における感情をもとに下した決断が、その後の自分の行動に対して強い制限をかける契約をする(=結婚をする)という制度は合理的に考えてかなりのリスクであることも間違いないと思います。
ちなみに社会学者の上野千鶴子は結婚の定義を「自分の身体の性的使用権を、特定の唯一の異性に、生涯にわたって、排他的に譲渡する契約のこと」としています。(https://toyokeizai.net/articles/-/133727
結婚が「しなくてはならないもの」ではなくなってきた現代において、結婚とはなにか・なぜ結婚をするのか ということに対して、社会全体の「結婚ってこういうものだよね」という常識に頼るのではなく(その常識における定義すらかなり曖昧)、一人ひとり(それぞれのカップル)がしっかり話しあって定義付けを行う必要があるのではないかと思っています。(つまりカップルの数だけ結婚の定義があるということ。二人がよければもはや結婚すらしなくていい)
筆者は本書の中でパートナーの男性と「他に好きな人ができたらどうするか、自分以外の人とセックスしたら(したくなったら)どうするか」を事前に話しあっていて、すごくレベルの高い関係性だなと思いました。この話を議題にあげること自体、パートナーによっては傷つけてしまう可能性があるのですべてのカップルにできることではないかもしれませんが・・・(多くの人のなかで付き合う・結婚するということ自体、「他に好きな人ができるということはありえない」という「常識」が前提としてあるため)。
ちなみにエマ・ワトソンは「同性カップルのほうがさまざまな局面で話し合いをする機会が多いためコミュニケーション能力に長けており、健康的な関係性を築けている」という分析をしていて、「典型的な枠組みにハマらないカップルのほうが役割分担や責任の所在についてきちんと会話をして同意に達している」と語っています。(https://front-row.jp/_ct/17353054
付き合う・結婚するの定義を曖昧にせず、きちんとお互いで話し合って決めることがこれからは重要になってくると思います。

・家族について
"私にとっては「父+息子」という組み合わせこそが新鮮だけど、彼らはもう何年もこの設定を生きてきていて、CMで親の揃った家庭の図を見ることなんて、日常茶飯事なのかも。勝手に私が期待してしまっていたのだ。「自分たちには母親がいない」と気に病んでいる子どもたちの姿を。嫌になってしまう。こんなに自由でいたいと自分で言いながら、自分こそが偏見に囚われている。"
→自分も読みながらはっとさせられた部分です。本書全体を通して(前作も含め)、筆者は自身の思考プロセスを客観的に記述することが得意なので、読みながら確かに、確かに、とシーソーゲームのように自分の考えも移り変わっていくのが感じられて楽しいです。特に、母親がいなくても普通に成立している家庭に第三者である自分がどのように参加していくのか?を模索していく過程は妥協せず徹底的に向き合っている姿勢が感じられてかっこいいです。

・教育について
"誰がどんなふうに生きてもかまわないよ、と思っていれば無責任で気が楽だ。「正しく教育する」ことと「思い通りに育てる」の違いはなんだろう。美しい魂を持って子育てしている人たちは、何を基準にその判断を下し、実行しているのだろうか。私は今まで恋人とも、結婚していた人とも「私の思い通りに変わってほしい」と思うのが苦手で、「合わないなら別れればいいじゃない」でやってきたから加減がわからなくて難しい。"
→この記述の後半部分は自分も全く同じことを考えていて、誰かを変える権利や資格が自分にはないので合わないと思えば離れるし、合うと思えば一緒にいるというスタンスを貫きたいのですが、自分の子どもができたらそういう訳にはいかなくて、「何が正しくて何が悪いのか」を全部自分が決めないといけないのはあまりに荷が重すぎるなと読んでいて感じてしまいました。
そもそもこの世のほとんどのことに良いとか悪いというのはなくて、判断する人がどう思うか、どうしたいかで決まってしまうので、それらを全部ひっくるめて教育するというのは自分には絶対に無理だなと思ってしまう。
自分の親や周囲の子育てをしている人に「どうやってものの善悪を教えているのか?」を真面目に問いたいところです。

これだけ濃い内容でありながら3時間くらいで読めるし、作中に出てくる筆者の考えのもととなった本がたくさん紹介されるので、時間対効果も抜群です。
やっぱり読書量が半端じゃない筆者の作品を読んでいると思考というのは知識によって形成されるのだな思いました。色んな人の価値観や考えを知ることで自分の思考も豊かに深くなっていくのですね。
最後に人と意見を交わすときの筆者の気持ちでほんとそれなと思った一文で終わりたいと思います。
"自分にとって当たり前の感覚について話すたびに、驚かれたりして、何度も詳しく説明しなきゃならない挙句、でもどうして? どうしてそんなふうに思うの? と少し否定的なニュアンスで聞かれ続けることは時に疲れる。議論も少しなら楽しいけど、受け入れる気がない人に答えるのは疲弊する。"

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年5月3日
読了日 : 2020年5月3日
本棚登録日 : 2020年5月3日

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