ひとかどの父へ

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2015年4月7日発売)
3.53
  • (5)
  • (21)
  • (19)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 139
感想 : 23
4

大学卒業後やりたい仕事もなくアルバイトをしてる朋美。
家には父の写真が一枚もなく、記憶もおぼろげだ。
父の事を思うと、身体の軸が緩んでしまうような心許ない気持ちになる。
8歳の時に行方不明になって以来ずっと会っていないし、
戸籍上は非嫡出子という事になっている。
母親からは「立派な活動家で事情があって離れ離れになった」とだけ
聞かされていて、きっと「ひとかど」の人物なのだと思い込んでた。
しかし、ビジネスで成功した母・清子が衆議院議員に立候補した時、
「未婚の母で、父が北朝鮮の工作員でないか…母は、出世の為に
権力者の愛人になった…」という疑惑が報じられた…。


朋美には在日韓国人の親友・孫由梨がいるが、
優れた容姿を持ち、温かな家庭に恵まれた彼女への屈折した
嫉妬心は、彼女が日本人じゃないし…と、密かに見下す事で
何とか軽減されていた。
それなのに、自分が朝鮮人の子供かとある日突然知った事実に
朋美が感じた不安・怒り・拒絶・落胆・嫌悪…捻じれてこじれた
感情が渦巻く様子、そんな自分を受け入れられない気持ちは、
もしも自分だったら…と、思いを馳せました。

父と母が出会った1960年代から1970年代・1990年代
現在に至るまで、時代が行き来し、時代ごとに在日朝鮮人を
取り巻く状況や時代の空気が変わっていく様子が良くわかる。

身近に在日朝鮮人の方が居なかった。
今迄、漠然としか考えた事が無かったし、知らない事も多かった。
パスポートの色が違う・外国人扱い・通称名の使用…。
就職・結婚…根強い差別…悲し過ぎる…。
本当に色々な事を考えさせられました。

重いテーマで、きっと深く深く描くととても暗く重くなるのだろけど、
朋美という一人の女性が自らの出自を受け入れ、
生まれてきて良かったって思える所までの変わって行く様子を
丁寧にサラッと描いている。
とっても、気持ちの良い読了感でした。

著者の深沢さん自身が「在日」という属性に思い悩んできたそうだ。
在日である事を受け入れられない自分と、そう思ってはいけないと
いう気持ちに引き裂かれていた…そんな思いがギュッと詰まった
とても素晴らしい一冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 家族小説
感想投稿日 : 2016年2月27日
読了日 : 2015年5月30日
本棚登録日 : 2016年2月27日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする