大学卒業後やりたい仕事もなくアルバイトをしてる朋美。
家には父の写真が一枚もなく、記憶もおぼろげだ。
父の事を思うと、身体の軸が緩んでしまうような心許ない気持ちになる。
8歳の時に行方不明になって以来ずっと会っていないし、
戸籍上は非嫡出子という事になっている。
母親からは「立派な活動家で事情があって離れ離れになった」とだけ
聞かされていて、きっと「ひとかど」の人物なのだと思い込んでた。
しかし、ビジネスで成功した母・清子が衆議院議員に立候補した時、
「未婚の母で、父が北朝鮮の工作員でないか…母は、出世の為に
権力者の愛人になった…」という疑惑が報じられた…。
朋美には在日韓国人の親友・孫由梨がいるが、
優れた容姿を持ち、温かな家庭に恵まれた彼女への屈折した
嫉妬心は、彼女が日本人じゃないし…と、密かに見下す事で
何とか軽減されていた。
それなのに、自分が朝鮮人の子供かとある日突然知った事実に
朋美が感じた不安・怒り・拒絶・落胆・嫌悪…捻じれてこじれた
感情が渦巻く様子、そんな自分を受け入れられない気持ちは、
もしも自分だったら…と、思いを馳せました。
父と母が出会った1960年代から1970年代・1990年代
現在に至るまで、時代が行き来し、時代ごとに在日朝鮮人を
取り巻く状況や時代の空気が変わっていく様子が良くわかる。
身近に在日朝鮮人の方が居なかった。
今迄、漠然としか考えた事が無かったし、知らない事も多かった。
パスポートの色が違う・外国人扱い・通称名の使用…。
就職・結婚…根強い差別…悲し過ぎる…。
本当に色々な事を考えさせられました。
重いテーマで、きっと深く深く描くととても暗く重くなるのだろけど、
朋美という一人の女性が自らの出自を受け入れ、
生まれてきて良かったって思える所までの変わって行く様子を
丁寧にサラッと描いている。
とっても、気持ちの良い読了感でした。
著者の深沢さん自身が「在日」という属性に思い悩んできたそうだ。
在日である事を受け入れられない自分と、そう思ってはいけないと
いう気持ちに引き裂かれていた…そんな思いがギュッと詰まった
とても素晴らしい一冊でした。
- 感想投稿日 : 2016年2月27日
- 読了日 : 2015年5月30日
- 本棚登録日 : 2016年2月27日
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