人外

著者 :
  • 講談社 (2019年3月7日発売)
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本棚登録 : 154
感想 : 16
5

『暖かな血がまたふたたびからだのなかを循環しはじめようと野ねずみの肉を喰らい血をすすって恍惚としようとわたしたちはあくまでもつめたかった』―『1 発端』

松浦寿司の闇の深さは、普段きれい事で問題を片付けようとする自分の志向を激しく揺さぶる。その救いの無さが返って潔い。それでもこのスノビッシユな文章は一々鼻につく。この作家はそれを露悪的に書くことを意図しているので意地が悪いとしか言いようが無い。それでも何故かそんな文章を求めてしまう気持ちがある。

何かを当て擦っているのか、そうではなく単に作家のボキャブラリーなのか、それが判然としない言葉の並びに馴れて文脈を気に掛けなくなってしまうと、この作家の文章は急に底が浅く思えてしまうこともある。しかし何か人間が根源的に抱く違和感をこの作家ほど端的に書き表す作家を他に知らない。それ故、強い拒絶感を押し付けられているのを感じながら、何故か読み続けてしまう。

惹かれながらも、何処かで受け入れたくはないという気持ちにもなる。深読みするべきと思いながら、レトリックに嵌りたくないという思いにも囚われる。人外をわざわざ「にんがい」と読ませる意図は何なのか。そんなことを考えていると、松浦寿司の皮肉な冷笑がイメージされてしまい、前にも後ろにも進むことが出来なくなる。難読の漢字をまぶしながら、平仮名を読みにくい程に連ねる文章で閉口させることにはどんな意図が隠されているのか。そんな事ばかり気にしていると、言葉の意味が立ち上がらせるべき心象を何も再構築出来ぬまま頁だけが進んでしまう。

一つだけはっきりしているのは、老いが作家を回顧的な気分にしているであろうということ。その境地に至った時でも、人は諦観というある意味到達点とも言える感慨に中々に至ることは出来ない、ということがひょっとするとこの作家が言いたいことの全てなのか。そんな思いを抱きながら読了する。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年10月24日
読了日 : -
本棚登録日 : 2019年10月24日

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