力動精神医学の第一人者、ピエール・ジャネ。フロイトと同時代に活躍し、
下意識、解離、心的エネルギー、意識野の狭窄などの重要概念を生み出した。
本書はジャネ自身が関与した膨大な症例から、訳者が精選した五症例を集めたものである。
母の死の衝撃から記憶を喪失したイレーヌ。コレラ恐怖に呪縛されたジュスティーヌ。
夢遊状態の背後に別人格をもつリュシー。悪魔憑きに苦しめられるアシール。
摂食障害のナディア。
ジャネが患者の苦悩に深く共鳴し、きめ細かな関係を基礎に
治癒への道を探る過程が綿密に綴られる。
今日でいうところの心的外傷をうけた出来事の記憶喪失とフラッシュバック、
解離性障害と統合失調症との鑑別、多重人格障害における副人格の出現のプロセス、
ヒステリーと感覚麻痺、成熟拒否の強迫観念などが見事に現れたこれらの症例は、
古典的範例として後世に多大な影響を与えた。
豊かな症例を水脈とするジャネの理論は、
現代に通用する実践性を備えているといえよう。
精神療法黎明期の症例報告であると同時に、
臨床における症例の重要性を教えてくれる、精神医学の源流がここにある。
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カテゴリ:
医学
- 感想投稿日 : 2011年3月3日
- 本棚登録日 : 2011年3月3日
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