独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

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  • 岩波書店 (2019年7月19日発売)
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ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を捉えて、この戦争はナチズムから祖国を守る「大祖国戦争」だと訴えています。
われわれにとっては「大祖国戦争」という言葉より、「独ソ戦」という方がイメージは湧きやすいのですが、ロシア人にとっては、われわれには測りがたい独特のイメージがあるようで、本書をそれを解き明かしてくれます。
また近年、ノーベル文学賞の「戦争は女の顔をしていない」や日本では本屋大賞の「同志少女よ、敵を撃て」など、独ソ戦を舞台にした話題の本も多く、独ソ戦とはどんな戦いだったのが知りたくて、この本を手にしました。

<祖国戦争・大祖国戦争とは>
ロシアでは、帝政ロシアが1812年に戦った対ナポレオン戦争を「祖国戦争」、ソ連(当時)がナチス・ドイツと1941年6月~1945年5月に戦った戦争を「大祖国戦争」と呼び、本書は、この対独戦争の詳細を纏めたものです。

<未曾有の惨禍>
まず、驚いたのが、この戦争の人的被害です。
太平洋戦争の日本人の戦死者が、軍民合わせて約300万人と言われているのに対して、独ソ戦では、3000万人強(ロシア:2700万人、ドイツ:350万人)と言われており、日本人の死者の約10倍もの人が死んでいます。

<殲滅戦争>
何故このような悲惨な戦争になったのかを、本書では、ドイツ・ヒトラーの世界観から説き起こし、戦争に至った背景、その後の戦争の経緯、レニングラード、モスクワ、スターリングラードの包囲戦に敗れたドイツ軍を、掃討するソ連軍の戦い。
そして、その独ソ両軍のそれぞれの残虐非道な、殲滅戦争の戦い方を描いています。

戦後、ドイツでは、この戦争をヒトラー個人に罪を負わせていましたが、新しい事実から見えて来た国防軍・ドイツ財界・ドイツ国民の関わり方、そして、冷戦終了後に明らかになったスターリンの指示によるソ連軍の残虐さ等、最新の学説を中心に、この戦争の概要をコンパクトに纏めています。

<全体を読み終えて>
ヨーロッパ各国の世界への帝国主義侵略に、遅れて登場したドイツ。
その流れの中でのヒトラー流の帝国主義観の内容にも驚きました。(日本も他人事ではありませんが・・・)
優秀なゲルマン民族を栄えさせるために、東欧を植民化し、さらに民族的に劣っているとみなしたスラブ民族の住む地域も植民地にしようと、当初から考えていた事には、今さらながら驚きです。
現に併合した東欧から略奪した物資をドイツに還流したので、ドイツ国民は、相対的に裕福な生活を享受していた。ドイツ国民にヒトラーの政策は受け入れられたのでした。

そして「独ソ不可侵条約」は単に対仏戦争のために背後の憂いを絶つために利用したに過ぎず、対ソ戦は予定通りの行動であった。但し兵站の失敗は想定外だった。フランスとソ連は違っていた。
そしてヒトラーは劣悪なスラブ民族を殲滅、つまり皆殺しにしようと本気で考えていたことが、この戦争を悲惨なものにしていった。その攻撃を受けたソ連も、復讐心に燃え、さらに壮絶な殺し合いになっていった。

現在では、ヨーロッパでは、人道主義に反するものは・・・という批判をしているが、もとをただせば、かつての彼らの帝国主義が、このような独ソ戦に繋がっているのも無視できない事実でもあると思います。

本書を読んで、当時のヒトラー及びドイツ軍が、今日のウクライナ侵攻を始めたプーチンと同じような発想の上に立っていた事が、より鮮明になった。
共に、電撃戦で、短期決戦で終わるであろうと・・・

(追記)
以前から私の中で持っていた疑問は、第1次世界大戦で、帝政ロシアとフランスの東西2正面作戦で失敗したドイツが、第2次世界大戦で、またも同じ東西2正面作戦を取ったのが、不思議だったのですが、本書でその説明もされていました。内容は省略。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月11日
読了日 : 2023年6月11日
本棚登録日 : 2023年6月11日

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