タイトルの響きがよくて、新刊情報で即買いの1冊。円城さんのセンスも素敵だけど、この元タイトルにしても、ものすごく引用されることが多い!それだけ秀逸なんだろう。やるなあ、円城さんとライ麦おじさん。
表題作は、あるマシンに搭載された、ある機能のお話。ファンタジックさとシニカルさがすごくいいバランスだと思う。この機能くんが(だいたい任務として)日々考えることと、それは考えても仕方がない、あるいは任務として要求されていないことに対する感情が、絶望的とはいわないまでも、「なんでこんなことやってんだろ」という徒労感に包まれている。でもそれは決して悲観的なものでなく、「ま、しょうがないか」とむしろ軽やか。村上春樹作品の「やれやれ」に近い感じかもしれない。このあたりも、ほかのかたが指摘されているとおり、「本歌」を巧みになぞってらっしゃる気がする。
円城さんの作品は、言葉の選び方と物語の構成で結構ハードなようにも見えるので、自分が果たしてキャッチアップして読んでいるのかどうか尋ねられても、正直な話、うまく答えられない。『AUTOMATICA』などを読んでいると、思考実験に巻き込まれているようで、途中で何ページか戻ることもしばしば。でも、本質的なところでは、限りなくベタ甘に近いロマンチックテイストで攻めてくるように思う。『捧ぐ緑』や『墓石に、と彼女は言う』では、登場人物の台詞や、さりげなくさしはさまれる情景が硬質ながらスイート。そこにダメ押しのシチュエーションで、不覚にも「いやーん、そう持っていきますか!」と真正面から胸キュンツボを突かれるので、自分ながらこっぱずかしくなっちゃいますぜ(笑)。
スイートなものからビターなものまで、この本で描かれた世界に何らかの教訓や意味を求めると、たいていの場合、腹が立って終わるだけのような気もする(笑)けど、「ようわからんけど、なんかおもろいし、キレイな文章!」と愉しさも残るし、理解が深まるとかそこを求めずに、つい繰り返してめくるような気もします。賽の河原状態の読書でいいや!という感じの本、といえるのかも。当たりどころが悪ければ、「円城ジャンキー」になるかもしれません…って、私はすでにそうなってしまったのかもしれないなあ。
- 感想投稿日 : 2012年5月6日
- 読了日 : 2012年5月6日
- 本棚登録日 : 2012年4月7日
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