狼少女たちの聖ルーシー寮

  • 河出書房新社 (2014年7月17日発売)
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感想 : 33
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『スタッキング可能』『英子の森』の松田青子さんが手がけられた翻訳書ということで、出版時から楽しみにしていたのだけれど、時間がなくて読むのをずるずる先延ばしにしていた本。このたび、やっと読むことができた。

子供と子供、または子供と大人の関係を描いた短編集。孤立した場所やグループ内での子供同士のざらついた関係や、大人へ抱いていた信頼感からの絶望といった、ネガティブな部類の感情がじわじわリアルに描かれている。嫌だと思っていても引力のある人物にあらがえずに引きずられていくさまには、ひりひりくるようなつらさがある。そしてその感情の舞台が、孤島でたった一つしかない、家族経営のぼろっちいアミューズメントパークだったり、今ひとつ意図のわからない矯正施設といったビザールな空間と、人外の存在っぽい登場人物。その中でネガティブな感情がぐるぐる回ってあたりを吹き飛ばすほど強大になったり、失速してよどんでいく様子は、ダークファンタジーっぽくもあり、普通に鬱小説っぽくもある。

個人的には、「星座観察者の夏休みの記録」「西に向かう子どもたちの回想録」「イエティ婦人と人工雪の宮殿」のあたりが、抜けられない計画に抵抗を感じつつもあらがえない、人間の子どもとしてリアルな感覚と、アルミホイルでぐるぐる巻きの人物やミノタウロスのお父さん、怪しいお店の正体不明の女主人といった、もののけ的な存在との関係性が面白かった。表題作「狼少女たちの聖ルーシー寮」は、タイトルずばりそのもののお話だが、適応 or not 適応という点において、恐ろしくリアルな『おおかみこどもの雨と雪』じゃないかと思う。しかもラストの1行がこの作品集の中でベストワンだと思うくらい、素晴らしくて残酷。

鬱展開の小説に子供のイノセント(にみえる)な感情をオンして、軽く仕上げているのが小賢しいと思わないこともないものの、そこがただ変にグロテスクな要素と表現だけの小説になることを救っているようにも思うので、結局は作者・ラッセルの術にはまって最後まで読んでしまったのだと思う。個人的な好き嫌いでいえば、「うーん、あんまり好きじゃない」と答える素材と展開なんだけれど。

松田青子さんの翻訳はオーソドックスで、奇をてらったところはない印象を持ったけれど、松田さんがお書きになる小説に通じるものをたくさん感じるから、やはり訳がうまくはまっているんだと思う。で、この☆の数。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 驚きとともに読んだ本
感想投稿日 : 2015年1月15日
読了日 : 2015年1月15日
本棚登録日 : 2014年9月24日

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