静かで絶望的な夫婦喧嘩の話。太宰治の描く男性は、だいたいが不器用で負のスパイラルに陥って、不運や苦境から這い上がる気概も根性もない。そのどうしようもなさが読んでいて苦しい。
本作では圧倒的に夫婦間の対話が足りないと思うが、腹を割ったところで、お互いに現実を受け止められそうにもない。
そして、とにかく奥さんがかわいそう、夫もっとしっかりしろと感じるが、男性は確かにこういうところがあるかもしれない、と思うし、どこかこの夫を憎めない。
最後、夫はさくらんぼをまずそうに食べるという行動をとるが、これを彼にさせるという太宰治の選択が、(言うまでもないけれど)本当に天才的。似たような経験は誰にでもあるのではないか。この表現に完全に心を持っていかれた。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年10月26日
- 読了日 : 2022年10月26日
- 本棚登録日 : 2022年10月26日
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