背信の科学者たち―論文捏造、データ改ざんはなぜ繰り返されるのか (ブルーバックス)

  • 講談社 (2006年11月21日発売)
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感想 : 32
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原書が83年と古いので,それほど期待せずに読んだが良かった。前読んだ『論文捏造』は主にシェーン事件という個別例を扱っていたが,本書の内容は古代から20世紀までと幅広い。原書刊行時に騒がれていた研究不正をメインにするのではなく,歴史に残る印象的なケースを取り上げて,名誉欲・自己欺瞞・師弟関係・政治的圧力といったテーマに分けて論じているのが長く読まれている理由なのだろう。
プトレマイオス,ガリレオ,ニュートンなど科学が自然哲学であった頃から既に倫理にもとる不正はあった。近代化を経て科学に国家の予算が入るようになり,職業研究者が当たり前になりその数も増えると,不正の誘惑もより大きくなる。信頼性を担保するはずの査読付き論文や追試実験も,商業主義やノウハウの壁,インセンティブの欠如によってなかなか有効性を発揮できない。
著者たちはかなり科学者に厳しめで,科学コミュニティーに任せていては捏造や改竄といった研究不正の解明はおぼつかないと言う。科学の自浄作用は過大評価されていて,それは1920-30年代の論理実証主義者たちが科学の手続きがいかに正当かという神話を作り上げてしまったことに起因すると分析している。
科学者も人間であり,不正は起こる。そのことを前提に,制度設計し組織を運営し発覚した不正に対応していかなくてはいけない。そして科学に税金が使われている以上,このことを国民一般の共通理解にしなくては。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2014年6月27日
読了日 : 2014年6月26日
本棚登録日 : 2014年2月19日

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