『海月姫』、『東京タラレバ娘』などで知られる漫画家、東村アキコの自伝的エッセイコミック。
主人公・林明子(*ちなみに東村の本当の本名は「森明子」らしい)は宮崎の高校3年生。少女漫画が大好きである。
自分は絵がうまいと本気でうぬぼれていた。投稿すれば大きな賞を取れ、超大型新人としてデビューすると思い込んでいた。
夢の人生プランは、美術大学に入る→在学中に漫画家デビュー→学費は漫画の原稿料で払う→漫画の実写化ドラマに出演した俳優と結婚→漫画を時々描いて幸せな一生を送る、と、相当な脳内お花畑。
大学受験なんて楽勝とも思っていたが、クラスメート(やはり美大進学志望)に、美大を受けるなら絵画教室に通わなければダメだと言われ、彼女が通っている教室に通うことにする。
・・・この先生、日高がすごかった。ジャージ姿に竹刀を持ち、超が付くスパルタ先生。口も悪けりゃ手も早い。今なら保護者から苦情がいきそうなほどだが、通ってくる老若男女の生徒たちは皆、先生に従順だった。
明子は石膏デッサンを1枚12時間以内で受験までに100枚描け、と無茶苦茶な指示を出される。明子だけではない。延々と来る日も来る日もティッシュの箱を描かされている老人、魚の骨を描かされている幼い姉弟、厳しすぎる指導に耐えかねて泣き出す女学生。阿鼻叫喚である。
日高先生自身は実は、美大を出ていないことが後にわかる。
それでも先生のデッサン力はずば抜けていた。また、厳しいながらも情に厚い、面倒見のよい先生であることも徐々にわかる。授業料は格安で、徹底的に1人1人の生徒と向き合っていた。
明子は勉強が苦手だった。推薦入試を受ければ学科試験は不要と高をくくっていたが、何だかんだでセンター試験(現在の大学入学共通テスト)を受けなければならなくなる。そこで先生から出た指令は「9割」取ること。定期テストで一桁台を取ることもあるほど勉強ができない明子には到底無理な目標だった。
そこで明子はどうしたか。
何とヤマカンでセンター試験を「攻略」する本を買って実践し、実際、模試でそこそこの点を取ってしまうのである。
・・・そんな力技ありか!?
そんなこんなの受験生生活を綴る1巻。
全体に抱腹絶倒なのだが、一話の終わりごとに、現在の明子=アキコが先生に語り掛ける一言・二言がじんわり沁みる。
日高先生のモデルとなった人物は、病気のため、早逝している。
そう、これは今は亡き人に向ける言葉なのだ。
だから、ドタバタコメディ風でありつつ、どこか深い郷愁も漂う。
- 感想投稿日 : 2023年8月23日
- 読了日 : 2023年8月23日
- 本棚登録日 : 2023年8月23日
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