独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

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  • 岩波書店 (2019年7月19日発売)
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ナチス・ドイツとソ連との泥沼の闘いは、1941年6月、ナチス軍が独ソ不可侵条約を破ってソヴィエト連邦に侵攻したことに始まる。
フィンランドからコーカサスに及ぶ、数千キロの戦線で数百万の大軍が激突した。規模だけでなく、その戦闘様態も歩兵、装甲部隊、空挺、上陸、要塞攻略など、陸戦のほぼすべてのパターンが展開するという異例の闘いだった。
両軍とも多くの戦闘員を失ったが、軍事行動やジェノサイド、さらには戦災が影響した疫病や飢餓でソ連側だけで2700万人の民間人が命を落としたとされている。
史上最大の惨禍である。

本書は、この独ソ戦の通史である。
時代を追って、何が起きたか、その背景に何があったかを述べていく。
戦線に関してはもちろんだが、ヒトラーの思惑、スターリンの姿勢も含めて描いていくことで、全体の流れが捉えやすくなっている。

著者によれば、ドイツによる対ソ戦は当初、「通常戦争」、「収奪戦争」、「世界観戦争(絶滅戦争)」の3つが並行する形で進んでいた。収奪戦争とは物資や人員を奪うことを目的とし、世界観戦争とは人種主義に基づいて相手方の社会秩序を改変し、植民地化することを指す。これが徐々に「収奪戦争」や「世界観戦争」が優位となっていき、空前の殺戮と惨禍をもたらすことになる。
対するソ連の原動力は、イデオロギーとナショナリズムの融合で、共産主義を守る戦いと位置付けることであった。それは敵に対する無制限の暴力を許すことにもなった。
両者、引くに引けない戦いは暴力と憎しみの連鎖を生んでゆく。

独ソ戦そのものの解釈に加え、歴史学が不動不変のものではない点も本書から学べることだろう。
史料の調査、その解釈、さまざまな視点の検討。新たな史料や証言が見つかれば、別の解釈が生まれうる。
特に、ソ連側の史料は、ペレストロイカやソ連崩壊まで封印され、1991年以降、ようやく機密文書の解析や歴史議論の自由化がなされたところである。
こうしたものの精査により、個々の作戦の内容により深い理解が進み、さらには独ソ戦全体の解釈もまた変わってくることもあるのかもしれない。
歴史学は生きている学問なのだ。

いずれにしろ、広域に渡り、膨大な被害をもたらした戦争から、後世の我々が学ぶべき点は多い。
巻末の参考文献を含め、学ぶ手引きとなる1冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2020年6月15日
読了日 : 2020年6月15日
本棚登録日 : 2020年6月15日

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