刊行から数年経っているが、そんな今読んでも「新しい」と思った。
科学の進歩によって肉体が不要になる物語はいくつか聞いたことがあるが、人間を完全な社会的存在へと昇華するために意識を消すとは。他人から与えられる野蛮にも幸福にも堪えかねた「私」が、まさか私を消して幸福を享受しようとは。
ここでは幸福とは何かというよくある哲学的な問いは全く意味を持たない。が、ある種仏教的に考えると涅槃寂静、さとりの境地にたどり着いた状態に人類がシフトしたように思える。本書のなかにも書いてあったように、人間は既に「人間ではなくな」った。一部を除いて大多数が成仏した。世界は仏に埋め尽くされた。正に天国。
世界が大好きだから、これから自死する人たちを生かすために人類を変えたミァハは、結果的に死観すら変えてしまった。生きるとは、死ぬとは。この世とは、あの世とは。答えは出ようもないが、本当に考えさせられる物語だった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年1月24日
- 読了日 : 2020年1月23日
- 本棚登録日 : 2019年12月20日
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