ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311667

作品紹介・あらすじ

優しさと倫理が支配するユートピアで、3人の少女は死を選択した。13年後、死ねなかった少女トァンが、人類の最終局面で目撃したものとは? オールタイム・ベストSF第1位

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    『ハーモニー』の舞台は、21世紀の初めに起こった「大災厄」と呼ばれる地球規模での大擾乱と核兵器の使用による荒廃の時代を経て、そのトラウマと反省から、テクノロジーによる極度の厚生社会、高度医療社会が実現された世界である。人々は医療プログラム「WatchMe」を身体に入れ、常時健康状態を監視し続けられており、ケガをした際にはたちどころにそれを修復し、健康・幸福であることが強制されている。病気の危険があるタバコ、アルコール、高脂質・高糖質の食べ物は全て取り除かれ、精神的な健康にも害が及ばないよう、暴力性を含む表現やコンテンツは全て排除されている。また、自身の健康状態や社会的属性、現在地等は全てオープンにされており、誰でも参照することができる。この社会における「プライベート」とは、いやらしいことであると同時にやましいことでもあるのだ。
    全ては社会を透明で健康的な場にするためのであり、人々はそうしたコミュニティの健全な一員として、他者と「ハーモニー」を保ちながらシステムを運営させられていく。

    本書の主人公である霧慧トァンは、高校の友人であるミァハとキアンと一緒に、社会に反抗するために自殺を試みた。しかし、ミァハは自殺に成功したものの、トァンとキアンは失敗し生き延びる。13年後、大人になった2人は他大勢と同じように、健康監視システムに組み込まれながら生活を行っていた。しかし、キアンは世界同時多発自殺事件――6,582人の人々が世界中で一斉に自殺を図る事件――によって、トァンの目の前で突如命を絶つ。キアンが自殺する直前まで電話していたのは、13年前に死亡したはずのミァハであった。

    本書は、あまりにも現代社会を反映「しすぎている」一冊だ。人が身体的な面だけでなく、精神的な面でも健康であることを強いられる。それは決して個人の幸福のためではなく、人間が社会を構成するうえでの貴重なリソースだからだ。そして行き過ぎた健康の増進は脆弱性を招く。一たび社会に不調和が起こると、不安が加速度的に増加していき、ネガティブな群集心理が形成されていく。
    今後私たちの社会も、技術の高度な進歩によって、個人の心理状態や自己の把握が容易になっていくかもしれない。しかしその結果、社会の束縛やプレッシャーが増大していき、健康でない存在が排斥されていく可能性が秘められている。そう考えれば、『ハーモニー』が描く世界は決して空想ではなく、私たちの未来の片割れであるといえるだろう。

    ――そうだよトァン、そのとおり。わたしはミアハの期待に応えられたような気がして、少しばかり心が宙に浮き上がった。そうなんだよ。トァンの言うとおり。わたしたちは互いに互いのこと、自分自身の詳細な情報を知らせることで、下手なことができなくなるようにしてるんだ。この社会はね、自分自身を自分以外の全員に人質として差し出すことで、安定と平和と慎み深さを保っているんだよ。

    ――「わたしたちが奴らにとって大事だから、わたしたちの将来の可能性が奴らにとって貴重だから。わたしたち自身が奴らのインフラだから。だから、奴らの財産となってしまったこの身体を奪い去ってやるの。この身体はわたし自身のものなんだって、セカイに宣言するために。奴らのインフラを傷つけようとしたら、それがたまたまこのカラダだった、ただそれだけよ」

  • 最初は聞き馴染みのない慣れない言葉ばかりでなかなか読み進められなかったが、少しずつ読み進めるにつれてどんどん世界観に引き込まれた。

    難しいと最初は思っても根気よく読み進めることを
    おすすめする。

  • 虐殺器官と対になっているハーモニー。
    でも実は虐殺器官のラストとハーモニーの世界は繋がっている。(これに気づいた時震えた)のでまずは虐殺器官から読むのがオススメ。

    アメリカを発端とする地球規模の暴動、戦争。
    殺して殺して殺しまくった悪しき経験から、人類は様々な医療リソースを開発し『健康であること』を第一に生きるようになった。

    肉体を管理するシステムを入れ、病気にならなくなった体。
    酒・タバコなどの有害物質は排除。
    食事などの生活習慣に関わることは全てシステムによって設計され、肥満・痩せ型がいない、全ての人が均一で健康な社会リソースとなった世界。
    まずこの世界観が超おもろい。
    のっけからすでに他の追随を許さないぼろ勝ち状態!

    そんな世界が息苦しく、命を捨てたがる3人の少女達。その1人トァンの一人称で物語は進む。
    虐殺器官はガチガチの男性一人称。女性一人称は柔らかい感じがして、こちらの方が読みやすい。てか書き分けが素晴らしい。
    『意識』についての脳の働きも面白かった。
    これを書く為にのにどれ程勉強したのかと思う。

    虐殺器官の世界が極端なマイナスだとしたら、ハーモニーは極端なプラス。
    そして最後は針が、機械が壊れ…
    人間は本当に極端すぎる。100-0やん!遊びあれ!
    私は例え病気が無くなったとしても、見せかけの優しさで窒息しそうになるこんな世界は嫌だし、ラストも本当に気持ち悪かった…
    読了した今『ハーモニー(調和)』に込められる様々な意味に気色わるっ!てなってる…
    未来の世界がこうならない事を切に祈る!

  • 初めて読む作家さんの作品。
    名前が···難しい。
    イトウケイカクさんと読むのね。

    それはそうと、
    最初ものすごく読みづらいと
    感じたものの

    今まで読んだことのない世界観に
    ひたすら衝撃。

    タイトルの意味がわかると、
    茫然としました。

    巻末のインタビューの対談が
    これまた面白い。

    と同時に、
    34歳という若さでこの世を
    去ってしまった作者さん。

    病気と闘いながら、
    彼だからこそ
    この作品が生まれたのかと。

    もっと生きてくれたら。

    強烈な印象が残りました。

  • ◯毎日毎日忙しすぎて、むしろ気楽に読めると思い手に取ってみる。
    ◯世の中がより健康を追求したらどういう世界が起こるのかを突き詰めた世界観が面白い。まさにユートピアがディストピアである。
    ◯国会での審議や厚生行政を見てみると、まさにこの世界を求めているのかと思うと、ブラックユーモアを感じる。マイナンバーや電子マネーの普及が、この世界をより身近にも感じさせる。この辺りがSFの醍醐味なのだろうか。
    ◯しかしこの世界が実現するほどに、人間は潔癖ではないし、もっと適当で愛すべき存在ではないかとも思った。

  • 早逝の作家伊藤計劃氏の最高傑作ともいわれる。一度読んだだけでは、小説の意味が分からなかった。映画をみて、さらに小説を読み返して、これが傑作だと気付かされるた。
    第40回星雲賞日本長編部門、第30回日本SF大賞受賞作。

  • 病気がほとんど消滅した世界で自死を選ぶ少女たち。
    そこから進んでいく物語。13年後の世界で起こる世界中を巻き込む未曾有の危機。生き残ってしまった少女たちは嫌悪する世界でどう生きてきたのか。多くは語らないけどとても面白いユートピア小説だった。SFの世界観がとてもよかった。

  • 欧州でAI規制法案が可決されたのをきっかけに再読しました!欧州では今後、『ハーモニー』の世界で行われているような、公的機関によるソーシャルスコアリングが禁止になります。「え、なんでダメなの?」と感じた方は、ぜひ『ハーモニー』を読むことをオススメします!この手の話題になると、ジョージ・オーウェルの『1984年』に登場するビッグ・ブラザーが引き合いに出されますが、「良かれと思って人権侵害」プロジェクトが頻発する日本では、一見ユートピア系ディストピア小説の方がリアリティあるかも。

    物語は21世紀後半、〈大災禍〉の混乱を乗り越えて、人々の健康と幸福を重視する社会が舞台。体にはWatchMeと呼ばれるデバイスを入れ、生体データを常時監視することで病気を未然に防止し、健康で倫理的な人物であることを、ソーシャルスコアリングで可視化する社会。そんな社会に絶望した主人公の物語です。

    著者の伊藤計劃氏はこの頃、癌の末期で、ずっと病院で執筆されたのだとか。そんな状況で「WatchMeで病気にならない世界に嫌気が差して、死を選ぼうとする主人公の話」を書くって、本当に、一体どんな気持ちで…。

    主題は監視社会うんぬんとは違うところにあり、そこも非常に魅力的ですが、欧州のGDPR、AI規制法に興味津々の自分にはすごく響く一作だと改めて感じました!『ハーモニー』の世界観、おそらく多分にナチス・ドイツを参考にして組み立てていると思うので、そこまでこじつけな感想でもないと…思います(笑)



    ちなみに、この部分、超好き♪


    “進化は継ぎ接ぎだ。(中略)進化なんて前向きな語は間違ったイメージを人々に与えやすい。人間は、いやすべての生き物は膨大なその場しのぎの集合体なのだ。”(P.325)

  • ハーモニー = 調和。
     全体がほどよくつりあって、矛盾や衝突などがなく、まとまっていること。また、そのつりあい。

    辞書でも、「ほどよく」とか、曖昧…
    やはり、こんな世界は、目指しても無理があるんやな。
    『大災禍』の後、その過ちの反省として、自身の全て(体、心-意識か…)を捧げる見返りに、全てを管理し、良い世界を目指す。病気もなく快適なユートピアにしようと!
    まぁ、結局は、ユートピアとは、反対であるディストピアなんやけど。
    こんなセリフがある。
    「精神は、肉体を生き延びさせるための単なる機能であり手段にすぎないかも…」
    今まで、精神(心かな?)が絶対上位にあるって考えてたけど、こんな考えもあるんやと驚いた(@_@)
    それなら、ラストも分からなくはない。それぞれの考えで、ハッピーエンド、または、バッドエンドになるな。
    深いわ(ーー;)

  • 読んで良かった.
    SFは好きだが、<未来の戦争>的なものには苦手意識がまだあるかもしれない. やはり印象に残るのは「善」や「意識」の定義についてだろう. 前者の方は確かに、続いているものを継続させることが善と言われているということに納得させられもした...(また書き直しておく)
    ところで、双曲線的と指数的ってほぼ同義じゃないんかな..?(どうでもいい)

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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