あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房 (2003年9月30日発売)
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本棚登録 : 4698
感想 : 401
5

2012年7月初読。
2023年10月再読。

先日読んだテッド・チャンの第二短篇集があまりにも面白かったので、10年ぶりにこちらを再読。相変わらず面白い。

再レビューにあたり、初読時のレビューを読み直しましたが、なんと若い…SFを読み始めたぐらいの時期でもあり、今読むととても恥ずかしい内容ですが、まあそのまま残しておこう。

第二短篇集は、テクノロジーの進化が人間の挙動にどのような影響を与えるか、といった作品が数を占め、全体的にスマートな印象。
第一短篇集でもそういった作品はありました(「顔の美醜について」とか)が、こっちの方がバラエティに富んでいる気がします。まさかのバトル展開に突入する「理解」のような作品もあれば、魔術のようなものを科学的に採用した「七十二文字」のような作品もある。読後、言葉で言い表せない気持ちにさせる「あなたの人生の物語」をメインディッシュに、フルコースを楽しんでいるようでした。

さて、表題作。
初読時は物語のからくりを把握した時のインパクトが強く、とても印象に残った作品でした。再読時は、そのインパクトはもちろん抱きつつも、ヘプタポッドの時間認識のあり方、つまり原因と結果を同時に知る同時的思考に興味を抱きました。よくこんなこと思いつくな、というありきたりの感想はさておき、この思考に対して、悲しさを覚えるのは私だけでしょうか。第二短篇集でも感じる著者の運命論的な主張にも通じる思考だと思いますが、何事も、何をなすにしても結果を知らないからこそだと思うんですよね。でもこれは人間的な発想であって、ヘプタポッドはそうではないのか。原因と結果を同時に知るって、どんな気持ちなんでしょうね。それこそ、物語の結末で「わたし」が行き着くところなんでしょう。だから、この作品には、言葉で言い表せない気持ちにさせられるのです。



<以下、初読時のレビュー>
新進気鋭のテッド・チャンが紡ぐ8つのストーリー。
そのうち以下に示す作品は、栄えたる賞を受賞した。

・バビロンの塔*ネビュラ賞
・表題作*ネビュラ賞*スタージョン賞他
・地獄とは神の不在なり*ネビュラ賞*ヒューゴー賞*ローカス賞他

『バビロンの塔』にいたっては、デビュー作にしてネビュラ賞を獲得するという史上初の快挙。
なんたる才人!読む前に変な先入観を抱いてはいけないのだが…知ってしまったのだから、仕方がない。

そして、読破。
期待を裏切らないテッド・チャン。
なんといっても表題作!これがズバ抜けて素晴らしかった。
優しいモノローグに記された驚くべき運命。
エイリアンとのコンタクトにより獲得した力は、果たして幸福に通じるものなのだろうか…

何かを隠喩した描写が節々で見られるからであろう。
読後に包まれる微妙な余韻は、表題作に限らず。
また、作品を通して物理学や数学など著者の嗜好が見受けられたが、なかでも言語学についての見識が深く、興味をそそられる内容であった。

他のお気に入りは、『ゼロで割る』『地獄とは神の不在なり』『顔の美醜について-ドキュメンタリー-』の三篇。これらもまた優れた作品。

まったく、面白い視点で物事を捉え、面白い物語に仕上げる人だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2012年7月8日
読了日 : 2023年10月13日
本棚登録日 : 2012年7月8日

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