人間の大地 (光文社古典新訳文庫)

  • 光文社 (2015年8月20日発売)
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感想 : 35
5

『星の王子さま』や『夜間飛行』の方が有名だと思うが、著者のサン=テグジュペリは職業としての飛行士の経歴を持つ。「時間や空間を機に摂、飛行家の感覚、心情、思索を一種の花束にしたようなもの」という比喩で語られるこの本。
郵便飛行士としての職人(といっていいかな)世界の話。砂漠で不時着遭難したときの話は一緒に自分も前後不覚で認識がおかしくなっていくような感じがした。
最初小説なのか何なのか分からないなと思っていたが、次第に飛行士の空から見る世界の視点、広い世界に釘付けになる。途中から一気読み。なんだかはっきりしないと最初感じていたのは、著者のあらゆることに対する徹底的な態度によるものだと分かった。サン=テグジュペリのメモから。「狂信の世界」に対置すべき方法。
”矛盾を認めること。それがたとえ人間の精神にとって耐えがたいことであっても、あるいはむしろ、耐えがたいことであるからこそ、二つの矛盾する経験的真実を誠実に受け入れる人間の精神は、矛盾を矛盾のままに留めておくことに耐えられず、二つの真実を同時にーどちらも排除せずにー吸収できる一つの言語を見いだそうと苦闘する。矛盾を受け入れることによって生じる不安、混乱、疑念、無秩序そのものが、本質的な意味で豊かな実りをもたらしてくれる。”
本編のあと解説があるのだけど、そこにあった言葉。このものの見方、なにかをいいとか悪いとか断定して突きつけず、あるがままの描写でわたしにどう感じるかを委ねている。わたしは考えながら読んでいくうちに、これはどうだと考えない、うーん、評価しなくても、分別しなくても楽しめるということに気づいていくという感じかな。もうなに、中道?仏道なの?と思ってします。そういうのがすごく良かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 古典
感想投稿日 : 2023年8月12日
読了日 : 2023年8月11日
本棚登録日 : 2023年8月12日

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