善の研究 (岩波文庫)

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感想 : 86
4

まったく内容を忘れていて再読だけど初読みたいなもの。
よく眠れるかと思い、毎晩寝る前に読み進めた。

下村寅太郎が解説で書いているとおり、本書は金沢の第四高等学校での講義草案。こんなに高度な内容を!?とまず驚く。

最初に第2編の実在論と第3編の倫理学(善)ができ、ついで第1編の純粋経験、最後に宗教論ができたらしい。
内容としては、いろんな哲学者のパッチワークみたいな感じだ。
カント、スピノザ、ヘーゲル、W ・ジェイムズなどなど。
西田哲学の出発点にある書物であり、たしかにつっこみどころ満載ではあるのだけれどもそのぶんいくつもの汲み尽くせぬアイデアが輝いている。

日本という文脈においてみると、西田の精神論は危険だとか、いくらでも悪く言えそうだ。
「自他合一」「主客合一」するところに知や愛が生じる、とか。もっともこうした考えは西田が座禅をよくしたからこそ
の着想だろうけれど。まあそれはさておき。

彼の「実在」の概念はベルクソンの「イマージュ」と似ていると思った。しかしベルクソンはともに持続の概念を方法的に持ってくるから、その後の展開はまったく違ってくるのだが。このへん、西田の論の進め方はすごく素朴。

次の一節が印象に残っている。

「幾何学の演繹的推理は空間の性質についての根本的自覚に、論理法を応用したものである。倫理学においても、已に根本原理が明となった上はこれを応用するには、論理の法則に由らねばならぬのであろうが、この原則その者は論理の法則に由って明になったのではない」

ここを読んで、スピノザの『エチカ』という変わった本で、倫理の話なのに幾何学の証明のような形式を用いていることの意味がいきなり氷解した。ありがとう西田幾多郎。

なるほど、ユークリッドの『原論』と同様、人間の倫理における公理をいくつか前提としたうえで論を進めていたのだな。またスピノザを読みたくなってきた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学・思想・宗教
感想投稿日 : 2022年12月10日
読了日 : 2022年12月10日
本棚登録日 : 2022年12月10日

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