コンラッドの『闇の奥』をなぞった物語だと思いきや、その創意工夫のうえではコンラッド版を凌駕している。けれども「クルツ」と「三上隆」を比較すると、人物造形という点では、クルツは人間の閾を振り切っているという点で圧倒的だ。そしてまた、クルツが生身の人間であることを示した点でも、圧倒的に存在感がある。
「三上隆」のモデルは、間違いなく、紀州が生んだ知の巨人、「南方熊楠」だろう。三上はクルツに対し、妖精のような存在だ。しかし辻原版で、気配でありながら圧倒的に存在感を持つのは「小人」。
本作は、もはや現代においてクルツのようなエゴの極北のような個性的人物は存在しえない代わりに、無個性な人間の背後で小人が一役買っている、と言っているかのよう。
小人はチベットで暗躍したCIAでもある。小人を突き詰めていくと、そこに実体はなく、ただ「制度」だけが残る。
本作は幻想的な小説であるかと思いきや、じつはひどく現実的な小説だ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説・詩
- 感想投稿日 : 2017年6月25日
- 読了日 : 2017年6月23日
- 本棚登録日 : 2017年6月19日
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