「努力する人は、成功を勝ち取る権利がある。」
これは正しい。がしかし、同じような努力をしても、失敗する人が一定数いるのは何故だろう。それは、成功には、運が絡んでいるからであり、努力に加えて、たまたま運がよかったから成功したというのが事実であり、「絶え間ない努力の末、手に入れた栄光」というものは、実は、脚色された物語なのかもしれない。
「多様性」という言葉のもとに、さまざまな差別を撤廃する動きが生まれた。身分の差別、人種差別、性差別など、「違い」をなくそう、よいものとして捉えようという社会の動きは、より活発になってきているように思える。
しかしながら、それは逆に「失敗の責任は個人に帰結する」という事実が待ち受けている。
例えば、貴族社会の時代では、「生まれ」が強く影響しており、貧しい暮らしをしなければならないのは、自分の身分が低いから、であった。
では、一見さまざまなチャンスに恵まれた現代において、努力したにもかかわらず、自分の思い通りにいかないのは、一体何が原因なのだろうか。
ここに、能力主義の闇の部分があるのだ。
自分が「できないこと」は、自分が「努力してこなかったから」だ、と。
能力主義のメリットは、努力すれば、成功する見込みがあると考えられることだ。
努力次第で、人生は欲しいままにできるという希望は、自分の前にある大きな壁に立ち向かうための、充分な理由になる。
しかし、その壁を越えられなかったとき、能力主義は、あなたに対して牙をむく。「越えられなかったのは、あなたの責任だ。」
自分の人生を振り返ると、思い当たるところは多くあり、「運が悪かったから」と片付けるのは、一種の「逃げ」のようにすら思えてしまう。
この本では、能力主義がどうしてこれほど根強く社会に残っているのか、能力主義は正義か、それとも悪か。ではどうすればよいのかについて、書かれてはいるが、以前の本と同様に、答えは明確には書かれていない。
サンデル教授の本を読むと、なんとなく自分の今のレベルが推し測れるので、定期的に読むようにしている。
再び読み終えたとき、もしかしたら、違った感想を持っているかもしれない。現時点では、ただ、咀嚼するばかりで、追いつくのに必死な一冊であった。
- 感想投稿日 : 2021年12月24日
- 読了日 : 2021年12月23日
- 本棚登録日 : 2021年12月23日
みんなの感想をみる