主権者のいない国

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  • 講談社 (2021年3月29日発売)
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この本を読むまで、この国の〝国体“について真剣に考えた事は無かったような気がする。昭和天皇は国体護持という命題の虚構性、そしてこの虚構を成り立たせるためにどのような代償が払われたのかを熟知していたという。本著が言うように、日本国の象徴とされた天皇制のありようは明らかに戦前とは異なるが、日本人の精神性は、それが徳川家であれ、天皇陛下であれ、拠り所としての君主をすげ替えたのみで、戦後は、対米従属体制が国体化したに過ぎない。究極的にはアメリカが事実上の天皇の役割を担うことを意味するという論説は、決して誤りでは無い。

そうした理由もあるだろう。政権支持率にも大して意味はなく、日本人は大人しく増税を受け入れ、政府の言いなり。不満を募らせても、政権交代の受け皿となる野党に期待もできず、投票行動も変わらない。こうした閉塞感の中、相互監視、同調圧力や忖度により社会行動を制限する事で、地道な集団生活を送るのが特性となっている。強いリーダーシップというより、周りを見ながら、社会全体で合議を図るように、炎上や村八分、自警団により軌道修正していくシステムだ。

随分偏った本だ。安倍批判が見苦しい。著者自身も大衆をB層としか見なしていないから、選択の誤りそのものに対し、馬鹿が馬鹿を選んだという構図で論をエスカレートさせていく。他方で以下のような韓国擁護の論拠も示される。

フランスがナチスドイツに降伏しヴィシー政権が成立した時、フランスは敗戦国だった。しかしドイツの傀儡と化した祖国政府を認めないド・ゴール将軍がレジスタンス運動を司る自由フランス政府を結成し、それがやがてフランス共和国臨時政府、第4共和制のルーツとなる。フランス人が自国を独力で解放したとは言えない。しかしフランスは戦勝国の立場を得た。戦後のフランスはヴィシー政権のフランスに接続したのではなく、亡命政権に接続したのだ。大韓民国臨時政府とどのような差があるか。

この国の主権者が不在する問題は、戦争に至る前からポイントオブノーリターンとして、不可逆的に突入した出来レースでもある。米国依存を脱するには核を保有すべきだろうし、疑似的な一党独裁体制を是正するには利権構造を崩さねばならず、警察権も御用学者も中間業者もそれらを票田とした互恵的な構図にも、ありとあらゆる経路依存に破壊的なイノベーションが必要だ。

安倍政権を批判するまでは誰もが可能な行動だが、この国を良くするには、韓国擁護などを並べる前に、自国第一でのオルタナティブが必要だ。国益を損なう議論と政権交代が混ざるから、左派は信用ならず、大衆は自ず、権威主義や利権、そのおこぼれを目指すしかなくなるのではないか。エリート層にも、マスコントロールの気概見えず。右も左も嫌ならこの国から去れ、の末路か。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年9月10日
読了日 : 2023年9月10日
本棚登録日 : 2023年9月9日

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