タイトルだけで、淡白で薄っぺらい内容を想像したが全くそんな事はない示唆に富んだ本。データに基づき現象を正しく分析するだけではなく、守備範囲も広い。多々、学びがあった。
社交のための関係性を持たない「社会的孤立」の度合いが、日本は先進国の中では飛び抜けて高い。それ故に、出会いも少なく、未婚率も増え、出生率は低下。引退後の無気力を招き、孤独死、あるいは死ぬ時は病院で。
日本人はいつから、他人に対してこんなにも線を引くようになったのだろう。同じ車輌に押し込まれた悲しい勤め人なのに、目も合わせない。空間を共にしても、会話をする事は稀。コミニティー空間や居場所がない。昔は、教会や神社がコミニティーの役割を果たしていたのだという。確かに、何かしらの儀式が地域交流を齎し、集団信仰が結束を導いたのは想像し易い。お醤油を隣近所に借りたなんて話もサザエさんなどの漫画で見た。今はコンビニやネットもある中で、自分で何とかできてしまう社会。多様性、個の尊重が裏表で自己責任社会を招いた。
イギリスに東インド会社が設立された。1600年とほぼ同時期、1601年にエリザベス救貧法と呼ばれる現在の生活保護に相当するような制度が作られた。社会主義から資本主義に接近した社会主義市場経済と、資本主義から社会主義に接近した福祉国家は、既に連続的な関係にある。「人生前半の社会保障」、ストックに関する社会保障が重要だと著者はいう。
人生前半に手厚くするという思想は重要だ。生涯の医療費の約半分は、70歳以降にかかる。先進国における15歳から44歳までの病気の原因は、精神関係の病気、あるいは社会的な要因(道路交通事故)が上位を占めている。つまり、「人生前半の医療」は精神的ないし、社会的なものが中心である。貴重な労働力を躓かせない、いや、転んでも立ち直れる社会が重要。教育投資の価値が高いのも、人生前半だ。老人達よ、若い人から搾取するならせめて富裕層の資金を若者の投資へ。
- 感想投稿日 : 2024年1月27日
- 読了日 : 2024年1月27日
- 本棚登録日 : 2024年1月26日
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