私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2007年10月16日発売)
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本棚登録 : 102
感想 : 18
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著者は1941年生まれの地震学者。
2006年2月1日に詐欺の疑いで逮捕され、札幌拘置所に拘留されます。
7月21日に保釈が認められるまで171日間の拘置所での生活を詳細に記録した本です。
島村氏の罪状は、北大在職中に、ノルウェーのベルゲン大学に海底地震計をあたかも個人の所有であるかのように騙って、代金約2000万円をだまし取った、というものです。
この本においては事件の内容はあまり詳しく触れられていませんが、氏のホームページに「裁判通信」という形でレポートされています。

拘置所での自身の生活を描いたものとしては佐藤優氏の「国家の罠」があります(この本の中でも一か所引用があります)が、この本に書かれている内容は「国家の罠」の内容と重なる部分も多く、「国家の罠」をすでに読んでいる人にはそれほど新たな知見が得られるというわけではないように思います。
ただ、こちらの島村氏の本の方は非常に克明です。
このあたりはやはり学者らしさが出ているのでしょうか。
特に、入所以来の食事メニューを20ページ近くにわたって書き連ねた部分はある意味壮観です。

結局島村氏は札幌地裁で執行猶予つきの有罪判決を受け、迷った末に控訴を断念、判決が確定します。
ただしそれは罪を認めたということを意味するのではなく、控訴して上級審へ進んでも無罪にはさせないだろうという検察と裁判所に対する深い不信から下した決断なのです。
佐藤氏にしても、島村氏にしても、国家の意思によって罪を着せられたと認識している(島村氏の場合は地震予知という「国策」に対して批判的な立場をとってきたことが原因ではないかと自身で分析しています)点が共通しています。
そして、不自由で窮屈な拘置所生活を強いられながらも、自分と周囲を客観的に見つめる知性と強い精神力を持っているところも。

本件が本当に「国策」的に作り上げられた事件だったのか判断することはできませんが、国家が国民個人の自由を奪い拘禁することの危うさを知るという点において、この種の本は読んでおくべきと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年1月6日
読了日 : 2008年3月6日
本棚登録日 : 2019年1月6日

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