世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史

  • 朝日新聞出版 (2016年8月5日発売)
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「ガラス」「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光」
人類が歴史上生み出してきた6つのイノベーション。
これらのイノベーションが生まれ、世の中に広まり、社会を変えていく過程では、1つの発見・発明が同時代的な別の変化と影響しあい、思いもかけない発展の仕方をしてきた。

たとえば「ガラス」。
天然の化合物であるガラスが装飾品として用いられ、やがてレンズとしての用途が見出される。
時を同じくして印刷技術が発展し、眼鏡が普及、世の人々が遠視であることに気づかされることになる。
望遠鏡は天文学の発展に寄与し、顕微鏡は生物学や細菌学に長足の進歩をもたらす。
そして、ガラス繊維をより合わせたグラスファイバーがインターネットの実現を可能にし、スマートフォンの画面にもガラスが使われ、今のデジタル社会を支えている。

このように「ガラス」の利用を切り口にイノベーションの連鎖を俯瞰することで、人類史を眺める興味深い新たな視点が生まれる。

さらに面白いのは、イノベーションの連鎖とは、上記のような「王道」ばかりではないということ。
実は、思いもかけないところで、ある発明・発見が社会の変化とつながっていることがある。

たとえば、以下のように。

「ガラス」
・鏡によって、人は自画像を描くことが可能になった。それが、ルネサンスを惹起する一因となった。

「冷たさ」
・エアコンの小型化が暑い地域でも快適に生活することを可能にし、亜熱帯地域への人口流動を巻き起こした。米国では南部諸州の人口が増加し、政治地図を塗り替えた。
・精子や卵子の冷凍が可能となることで不妊治療・人工生殖の技術が進展し、人口増加の一因となった。

「音」
・電話の発明・普及により、電話交換手という専門職につく機会が生まれることが女性の社会進出の契機となった。
・真空管ラジオがジャズを大衆化、アフリカ系のエンターテイナーが存在感を高めたことが、後の公民権運動に影響を与えた。
・真空管アンプによる拡声器が、ヒトラーの演説の効果を高め、ナチスの台頭の一助となった。

「清潔」
・塩素消毒により公共のプール・浴場の開業が増えることで、女性が肌を露出する機会が一般化し、ファッションの変化を加速させた。
・市販の漂白剤がマス向けの製品として登場し、広告ビジネスの発展の契機となった。

「光」
・石油ランプ・ガス灯により、夜間でも明るみの下での活動が可能となり、雑誌・新聞の発行が増えマスメディアの発展の起点となった。
・フラッシュ撮影がスラム街の下層民の生活を世に知らしめ、社会改革の機運を高めた。
・レーザーの発明が、バーコード読み取りというイノベーションに連鎖し、大型店舗の生産性を向上させたことで、チェーン店が小売業を支配するに至った。

イノベーションの発明者が当初まったく意図していなかったところで、社会が進む方向に大きな影響を与えているところが興味深い。

エジソンは当初蓄音機を「音声の手紙」を送る使い方をするための機器として想定し、一方でベルは電話を遠距離で音楽を伝えて聴く手段として考えていたそうだ。
現実には、世の中での使われ方が完全に逆になったが。

いろいろなウンチクを仕入れられるという意味で面白い本だが、それにとどまらず、世の中は人々の熱意やアイデアで発展してきたが、その発展の仕方までを人間がコントロールすることはできない、という視点を得られる点でも興味深い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年1月6日
読了日 : 2017年7月14日
本棚登録日 : 2019年1月6日

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