月光条例 (1) (少年サンデーコミックス)

著者 :
  • 小学館 (2008年6月18日発売)
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本棚登録 : 1167
感想 : 88

うしおととら、からくりサーカスの藤田先生の新作です。
青い月の光により何十年かに一度、おとぎばなしの世界がねじれてしまいます。
そのおとぎばなしは、猛き月光によって正されねばならない、という条例がタイトルである「月光条例」です。
主人公の月光、ヒロインの演劇部、おとぎばなしの住人・鉢かつぎを中心に読み手の世界に流れ込む、ねじれたおとぎばなしを正していく展開です。

この作者の作品は直球なので、今回もすごく好感が持てますね。
まず、おとぎばなしというテーマです。
子供の頃、おとぎばなしから学ぶことって実は多いんじゃないかと思います。
大人になってみると、単純なお話に感じてしまうこともあるかと思うんですが、子供が一番に善悪について考える機会ってもしかしたら、おとぎばなしかもしれません。
そういったテーマって、扱い方間違えると陳腐になってしまったり、難しいと思うんですよ。
でも、藤田作品の善悪描写についての真摯さはおとぎばなしに通じると思うんですよね。
そういう意味でもいいテーマじゃないかと思います。
主人公の月光も過去作品同様、そういう作品にふさわしい正しさを持ったキャラですよ。
各作品とも主人公を魅力的に描いているのは本当に見事だと思います。
最近は、こういう真っ直ぐな主人公も珍しくなりましたよね。

社会的にもそうなんですが、物語及び表現の世界でも善悪に対する迷いが表れてる作品がすごく多くなったように思います。
勿論、善悪ってそう簡単なものではなくて、個人の価値観の数だけ存在するともいえると思うんです。
ただ思うのは、例えば漫画などのレビューで勧善懲悪じゃない部分を評価しているものが未だに目に付くんですね。
でも、今そういう作品は腐るほどあると思うんです。
なんで、そんな今時珍しくもなんともない要素をあえて評価するのか疑問なんですが、もしかすると、逆説的な表現を無条件に良しとする風潮が若干あるのかもしれません。

作品において善悪を言及するって行為は非常に難しいと思います。
多くの物事は善悪二元論では論ずることができないということは、おそらく生きていれば感じることです。
しかし、そこで思考停止してしまう思うんですよ。
善悪なんて個人の価値観によるものだから考えても無駄…とか。
物事の善悪は決められないとしても、それについて考えることは無駄ではないと自分は思っています。
子供に人気のある作品でもそういった部分について、深く触れないものって最近多いように感じますね。
スタイリッシュだったり、萌えを追求するのは悪いことだと思いませんけど、単にそれだけの作品に感じるものは無いです。

繰り返しますが表現において、正しさを主張することは、読者にその答えを暗に委ねる何倍もエネルギーを使います。
善悪について読者の解釈に委ねるという行為は、問題提起といえますが、それが正しいかどうかを主張する場合、作者はその解答を持っていないことにはできないということです。
藤田作品はそういう点において、全力で取り組んでいるように感じます。

藤田作品の場合、どんなにかっこ悪くても人間として大切な部分を貫くっていうのが、逆にかっこいいんですよ。
たとえ、かっこいい名前の横文字の技やキャラが出てこなくても、登場人物が美男美女じゃなくても、すごくかっこいいんです。
この作品もそういう作品です。

余談的な部分の比率が多くなったのはご容赦ください…。

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感想投稿日 : 2010年2月14日
本棚登録日 : 2008年6月17日

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