子規のこと心から敬愛してるんだけど、実のところ写生がよく分からない。私は彼の短歌のうちでも写生らしくない歌、それも「足たたば」と「われは」の連作がすげえ好きなのだ。もはや子規の短歌が好きと言っていいのかどうかも分からないが、これらの歌からは病中の子規の率直で衒いのないところがひしひしと感じられて、読んでるともう、のぼさーーーん!ってなる。
たとえば『足たたば北インヂアのヒマラヤのエヴェレストなる雪くはましを』という歌、重い病気になったときせめてもう一度だけでも故郷の野山の土を踏みたいとかならよくある話、元気なときにできていたことをまたできたらっていう望みはわかる、でも子規居士エヴェレスト登ったことないだろう、そもそも他の健康な日本人たちだってエヴェレストなんて一生目にしないまま死ぬんだよ、それをまあさらっと世界最高峰に到達してあまつさえそこに積もる雪を食ってみたいなどと嘯く、まったくぶっとんだ人間だ、見上げたもんだ、そんな子規が私はほんとに好きなのです。
どんなことも歌の上で想像するだけなら誰だってできるだろうと思われるかもしれないが、試みに何年も布団に縛り付けられてみるといい。身体の不自由の中で精神を自由に保つことは非常に困難であると私は知ったので、彼への尊敬の念はいや増すばかりである。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
詩歌
- 感想投稿日 : 2013年9月8日
- 読了日 : 2013年9月8日
- 本棚登録日 : 2013年9月8日
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