ファスト&スロー (上)

  • 早川書房 (2012年11月22日発売)
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本棚登録 : 1292
感想 : 76
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行動経済学の分野でノーベル経済学賞を受賞し2024年3月に逝去されたダニエル・カーネマン博士の有名な著作。
アンカリング効果、プライミング、問題の過度な単純化、平均への回帰、ハロー効果、後知恵効果。
人の持つ偏見による事実認識の誤りを正した本書は”脳がシステム1(早い思考)とシステム2(遅い思考)を使い分ける”という概念を提示し、認知のエラーが起こる仕組みに迫った。直観に反する多くの実験結果が提示され、結構衝撃的。

一方、近年の実験手法の見直しで再現性が確認できないという批判を受けている内容も多い。
読んでいて、断定的に書かれる内容のいくつかが、あまりに直観に反しすぎていて、「これほんと?」とネットで調べたらあれこれ反証がでてきたものもの多かった。実験の再現性にはかなり疑問符。本書の内容は仮説としてはかなり興味深いんだけれど、”立証された科学”としては鵜呑みにすべきでない。
文量も多いので各種実験結果とそこから導かれる断定的な結論に疑いの目を向けながら読んでいると、めちゃくちゃ疲れてしまって、”システム2”を酷使するしんどい読書であった。

世界的に広く知られ、引用もされる古典的名著であるが、人に勧められるか?と言われると結構微妙。興味深い概念を提示したが、結論を急ぎ、著者自らシステム1の脆弱さを示した功罪ありの一冊、という印象。
アンカリングやハロー効果、後知恵効果などの根本の概念はさほど揺るがないと思うが、どうしても読者は印象的なエピソードをつまみ食いしちゃう。本書を読むことで”怠惰で信じやすいシステム1”のネガティブな機能とそこにブレーキをかけるシステム2の実力が試される、とは皮肉が効いている。
システム1の怠惰な回答を防ぐには、統計は大きな武器だし、もしかすると大規模言語モデルのようなAIもそれに近い結論を出せるのかも?とふと思いました。
本当は下巻を読んでから感想を書こうと思ったのですが、すぐに読み切れる確信がなかったのでいったんここで。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人類学
感想投稿日 : 2024年4月29日
読了日 : 2024年4月28日
本棚登録日 : 2024年3月28日

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